JTBC(日本ではNetflix配信)『調査官ク・ギョンイ(邦題)』で、主演としては4年ぶりとなるドラマ復帰を果たした女優のイ・ヨンエ。しかし彼女の待望の復帰作のはずが、なぜか視聴率低迷に陥っているという。韓国の視聴者は、なぜこの作品に背を向けてしまったのだろうか?
日本の韓国ドラマファンには、”チャングム”という*朝鮮時代の医女(宮内の女性医師)として親しまれている女優、イ・ヨンエ。
*朝鮮時代:1392年8月から1897年10月にかけて朝鮮半島に存在した国。李氏朝鮮とも呼ばれる。
韓国でも、ドラマ『宮廷女官チャングムの誓い(2003/MBC)』は大成功を収めたせいか、イ・ヨンエに対する日本のそれと大差ない。
マスコミが彼女を語る時は、”私たちの永遠のチャングムこと~”という、ありふれたキャッチフレーズが常に付きまとう。
そう、清楚なイメージで、邪気のない志を持つ女性(役)としては、右に出る者がいないと評されるほど、韓国を代表する大女優がイ・ヨンエなのだ。
そんな彼女が、主演としては4年ぶりとなるドラマ復帰を果たした。
イ・ヨンエの復帰作『調査官ク・ギョンイ』
復帰作は、JTBC『調査官ク・ギョンイ』。日本ではNetflix(ネットフリックス)で配信中の、日韓話題の新作ドラマである。
イ・ヨンエ演じるク・ギョンイは、元警察官で現在は保険会社の有能な”Gメン”だ。鋭い推理力と行動力で保険事故にまつわる難題を、次から次へと解決する人物として描写されている。
夫の死後、警察を辞職して引きこもりとなり、インターネットゲームに明け暮れる日々。そしてお酒がエネルギー源というユニークなキャラクターだ。
そんな彼女が、ひょんなことから現場復帰をすることになり、サイコパスな殺人鬼と立ち向かうというストーリーが、視聴者の興味をそそる。
“大女優の復帰(しかも大々的なイメチェン)”、”保険詐欺事件”、”殺人鬼”という、好材料揃いで10月30日にスタートを切ったのだが、なぜか視聴率低迷に陥ってしまった。
第3話までの視聴率を見てみると、2.6%→2.6%→1.9%と下降し、第4話で2.7%と少し上昇したものの、目を覆いたくなるほどの低迷ぶりだ。
彼女の持つネームバリューはさておき、韓国社会における保険金詐欺の実態や、もはや韓国ドラマの”お家芸”と呼んでも遜色のない”連続殺人鬼”という素材を駆使したにもかかわらず、なぜ韓国の視聴者は背を向けしまっているのだろうか。
イ・ヨンエが持つ、揺るぎないイメージとブランク
まず、原因として考えられるのは、イ・ヨンエの持つ揺るぎない“イメージ”と長すぎた“ブランク”だ。
彼女は、『宮廷女官チャングムの誓い』の成功以降、作品への出演に少し消極的だった。
もちろん結婚や出産など、プライベートな理由もあっただろう。しかし、様々な作品で様々な役柄を見せてこなかったことが、今となって響いてきている。言うなれば、女優としては致命的な“イメージの固定化”が進んでしまったのだ。
上述したように、イ・ヨンエと言えば、清楚なイメージで邪気のない志を持つ、”朝鮮時代の女性像”が真っ先に浮かぶ。
『宮廷女官チャングムの誓い』以降、次のドラマに出演するまでかかった時間は、なんと13年。その復帰ドラマ(『師任堂(サイムダン)、色の日記』)でも、朝鮮時代に実在した人物を演じている。
そんな彼女が、4年ぶりに選んだ役柄は、殺人鬼を追う元警察官。”破格的な変身”という話題性より、現代劇で活躍するイ・ヨンエというイメージに対して、違和感を覚えることに、少し共感してしまう。
ベテラン捜査官 VS 天才殺人鬼‥ありふれた構図と設定
組織内では、仲間たちに到底理解されない1匹狼として、大切な家族を失った過去を持つベテラン保険捜査官(元警察官)。そして、裕福な家庭で育ち、趣味のように”人間狩り”をする若くて天才的な知能を持つ殺人鬼。
この構図は、数年前から韓国ドラマや映画に登場する、もはやサスペンススリラーの典型的な構図である。
近年、サスペンススリラーに対する、韓国視聴者の見る目が肥えており、『調査官ク・ギョンイ』に登場する構図と設定が、すでに”ありふれたもの”として映っている。
韓国ネットでは、本作を見た視聴者から「どこかで見たような‥」「悪役の女の子、喋り方や行動パターンが作為的」という評価が相次いでいる。
***
もちろん、よくある男性捜査官と、男性殺人鬼という”男性同士の対決”ではなく、女性同士の対決や、夫の死と警察を辞した理由などの伏線は見どころ。
それにイ・ヨンエの演技力は、”さすが”の一言。長いブランクでも、なぜ彼女が韓国を代表する役者として認められているのか、改めて感じさせた。
第4話では、殺人鬼の正体に少しずつ迫っていくク・ギョンイの姿が披露され、1%台まで沈んだ視聴率も”V字”を描き、3%台に接近中である。
果たしてイ・ヨンエと『調査官ク・ギョンイ』は、これから視聴者の興味と関心を取り戻せるだろうか‥。
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