- 日本の韓国ドラマファンに根強い人気の“韓流時代劇”。
- 最近では『赤い袖先(原題/袖先赤いクットン)』が韓国で爆発的な人気となったが、それ以降大ヒット作品は誕生していないよう。
- 韓国で今、時代劇“ヒット作”の飢饉の状況となっている理由を4つご紹介する。

韓国で爆発的な人気となった、MBCドラマ『赤い袖先(原題/袖先赤いクットン)』 (画像出典:MBC)
ロマンス、ラブコメ、アクション、サスペンス、時代劇などなど、豊富なラインナップを楽しめる韓国ドラマ。
中でも、日本の韓ドラファンの間で根強い人気を見せているのが、“韓流時代劇”。「見始めたら一気見しちゃった!」「韓国の時代劇が大好き」という声もよく聞かれる。
日本でよく知られている名作といえば、『宮廷女官チャングムの誓い(2003)』『トンイ(2010)』『イ・サン(2007)』。他にも、歴史とともにラブストーリーが楽しめる『太陽を抱く月(2012)』『雲が描いた月明り (2016)』『花郎<ファラン>』 などのロマンス時代劇の人気も高い。
近年の大ヒット作といえば、2021年11月から韓国で放送された『赤い袖先(原題/袖先赤いクットン)』。
主演を務めた2PMのジュノは、“韓国のゴールデングローブ賞”とも呼ばれる『第58回 百想芸術大賞』で、“TV部門 男性最優秀演技賞”を受賞。韓国内だけではなく、日本でも多くの視聴者に愛されている作品だ。
しかし韓国では、これ以降、時代劇のヒット作が続いていないという。
『赤い袖先』ほどの人気やインパクトはないが、強いて挙げるなら『シュルプ(2022)』や『還魂(2022)』くらいと言われている状況‥。
では、なぜ今、時代劇が大ヒットにつながらないのか。時代劇“ヒット作”飢饉とも言われる、その理由を考える。
歴史歪曲に対する議論
まず一つ目の理由として、時代劇は議論に巻き込まれることが多く、制作を敬遠しがちだという考えがある。
韓国の視聴者は、実在した歴史上の人物が登場する時代劇は、“フィクション”と割り切って素直に見ない風潮が強くなっており、特に劇中の時代背景などに敏感に反応し、設定やストーリーに対し「歴史歪曲だ」と批判の声を上げる。
2021年3月に放送が始まった『朝鮮駆魔師』は”歴史歪曲議論”に包まれ、なんとわずか“2話”までの放送で打ち切りを余儀なくされた。
理由は、第1話に登場したシーンの描写に、”中国風”という指摘が相次いだためだ。視聴者は“中国由来”を連想するものに対してはより敏感になる。
(関連記事)第2話で終了? ‘朝鮮駆魔師’ 前代未聞の事態に「チャングムの誓いも歴史歪曲」
4月11日に韓国での放送が終了した、ロマンス時代劇『青春超壁』もその一つ。
パク・ヒョンシク主演ということもあり、放送前から大きな期待が寄せられていたが、原作が中国の小説だとわかると注目度がダウン。
制作は一時延期となり、別のタイトルに変更するなどの措置も取られたが、放送中は、原作要素が感じられる物語やキャラクター、描写などに対する議論が消えなかったという。
一部では、高いクオリティーの作品と評価を受けたものの、良い意味での話題作にはなれなかったようだ。

パク・ヒョンシクが主演を務めた時代劇『青春超壁』(画像出典:tvN)
撮影現場に対する厳しい監視
2つ目の理由は、時代劇は現代劇よりも制作が難しいということが挙げられる。
特に最近は、ドラマ制作スタッフの労働環境の悪さが度々話題となっていることもあり、制作陣へ向けられる世間の目が、より厳しくなっている。
その中で問題となったのは、“動物虐待議論”が持ち上がったドラマ『太宗イ・バンウォン』。
時代劇は野外での撮影が多く、役者の乗馬シーンもよく登場するが、この作品では、馬の足にワイヤーを縛り、強制的に倒す方法で落馬シーンを撮影した。
ところが、その1週間後にその馬が亡くなってしまったのだ。
これに対し、韓国の保護団体”動物自由連隊”が、落馬シーンの撮影映像を公開し、抗議。動物虐待という批判を受けたドラマは、3週に渡り放送を休止した。

『太宗イ・バンウォン』(写真提供:©スポーツ韓国、画像出典:KBS)
PPLで収益が得られない
なぜ時代劇が大ヒットにつながらないか、3つ目の理由は、高い制作費に比べて収益が低いから。
現代劇では、ファーストフードチェーン”SUBWAY”で食事をするシーンや、メイクシーンでは小物がアップになるなど、頻繁にPPL(間接広告)が盛り込まれる。
しかし時代劇は、韓国ドラマの定番とも言えるPPLが使用できない。
前出の通り、時代劇の時代背景に対して、視聴者の目は厳しい。
そのことも影響し、時代にそぐわない製品を登場させられない時代劇は、PPLでの費用収益が制作費の足しにできない。
エキストラの出演も多く、衣装や小道具などにもお金がかかるが、高い制作費を確保するのに欠かせない重要なPPLが利用できないことは、制作陣の頭を悩ます要素の一つになっている。
演技力を酷評される懸念
最後は、俳優が時代劇を敬遠する傾向があるという見方である。
時代劇は、特有のセリフまわしや発声が必要とされる。時には威厳をみせるため、声を張り上げることも。
視聴者にとって、滑舌の良さは、俳優の演技力を評価する大事な要素。韓国では、台詞が聞き取りにくいと、酷評されることがよくあるのだ。
特に若手人気俳優は、出演を敬遠しがちだという。現代劇での演技が好評でも、時代劇での演技に対し「一から出直してこい」と手厳しい評価を下す視聴者も‥。
難しいセリフが多い時代劇の出演は、俳優にとって精神的な負担が大きく、出演自体を避ける俳優も多いのである。
***
日本の韓ドラファンに人気の高い、“韓流時代劇”。
『赤い袖先』に続く大ヒット作の誕生は、いつになるのだろうか。その日が近いことを願いたい。
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