『ミセン-未生-(2014)』『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜(2016)』『愛の不時着(2019)』など、日本でも多く愛されたドラマを誕生させた、韓国のケーブルテレビ局tvN。このtvNが現在、危機的状況にあるという。その理由とは?
日韓をはじめ、世界的なヒットドラマを量産しているケーブルテレビ局tvNに、”危機”というワードが浮上している。
![ドラマポスター](https://danmee.jp/wp-content/uploads/2022/04/tvn-drama1-1024x491.jpg)
(左から)『ミセン-未生-』『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜』『愛の不時着』ポスター(画像出典:tvN)
『ミセン-未生-(2014)』『トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜(2016)』『愛の不時着(2019)』など、ここ日本でも多くの人に愛された名作ドラマを誕生させたtvNに、一体何が起きているのだろうか。
問題の発端は、バラエティー番組の制作プロデューサーの相次ぐ退社。
その先陣を切ったのは、『The Genius』『Great Escape(原題:大脱出)』などで知られる、チョン・ジョンヨンPD(プロデューサー)。彼は、韓国国内にシンドロームを巻き起こした敏腕プロデューサーとして、”マニアを作るPD”という異名を持っている。
今月、退社の意向を会社に伝えた(もしくは固めた)プロデューサーは、チョンPDだけではない。スターや著名人が出演するトーク番組として有名な『ユ・クイズ ON THE BLOCK』のキム・ミンソクPDや、『ドレミマーケット』を手掛けたイ・テギョンPD、『Mama The Idol(原題:ママはアイドル)』で注目を浴びた、ミン・チョルギPDなど、tvNの未来と称された若い才能が次から次へと退社するという。
その背景には、Netflix(ネットフリックス)など、VODプラットホームの急成長による”人材の取り合い”があると見られる。
しかし、一部の韓国メディアは「首脳陣への不満が、相次ぐ退社の引き金になった」と、局側と制作サイドの”不協和音”を理由に挙げている。
特に、来る5月に韓国の新大統領に就任する尹錫悦氏(ユン・ソクヨル/以下、ユン氏)が『ユ・クイズ ON THE BLOCK』に出演(4月20日)したことを巡り、両者の葛藤が爆発したとの見解を示した。
今回のユン氏の出演は、ユン氏側の要請により実現したもので、制作サイドは、出演を承諾した局側に強く反発していたようだ。
反発の理由は、番組の政治的な中立性と創作性の確保のため。tvNのバラエティー番組制作サイドは、政治家の出演により巻き起こるであろう政治的な議論や、出演者の思惑による創作性の棄損を恐れていると見られる。
しかも過去、文在寅(ムン・ジェイン)大統領が、同番組に出演したいという旨を伝えたのが、tvN側に断られたという疑惑が浮上。そのため、文大統領を支持する国民がtvNを猛烈に批判しているようた。
*文大統領は、現与党出身で、ユン氏は野党に籍をおいている。
tvNは現在、「新政権の顔色をうかがうテレビ局」「御用達メディアを買って出ている」「政治色と支持党がよくわかった」と、プロデューサーらが恐れていた政治的な議論のターゲットになり、残念ながら、不買運動の動きも感知されている。
一連の騒動は、ドラマ制作とは関係のないように見えるが、政治的な議論に巻き込まれると、ドラマの”素材”に様々な制約が付きまとってしまう。
政治関連イシューが多く取り上げられる韓国ドラマなだけに、韓国政界や政治家への描写に勝手な解釈がなされ、視聴者の批判を呼び起こす恐れもあり得る。
2010年に制作されたドラマ『ジャイアント(SBS)』は、当時の李明博(イ・ミョンバク)政権を賛美するという議論に巻き込まれ、制作撤回を求める署名運動も展開されていた。
![『スノードロップ』](https://danmee.jp/wp-content/uploads/2022/04/snowdrop-topic2-715x1024.jpg)
韓国で、”歴史歪曲”議論が勃発したドラマ『スノードロップ』(画像出典:JTBC)
昨年『スノードロップ』を放送し「80年代の独裁政権を擁護する」という批判に見舞われたJTBC。同局が今年の放送を目標に制作しているドラマ『*朝が明けるまで(原題)』は、中国共産党を称える内容だという噂が拡散しており、制作側を困惑させているという。
*朝が明けるまで:原作は中国のベストセラー小説。一部の内容に中国共産党の治績を宣伝するかのような表現が入っていると、韓国国内で批判の声も。
このように、一度”政治色のレッテル”が貼られたテレビ局は、中々それを剥がす事ができず、ドラマの本来の作品性より、政治的議論が独り歩きするいう境遇に見舞われてしまうのだ。
マスコミの芸能セクションではなく、政治・社会セクションで取り上げられるドラマ。視聴者のレビューより、論客たちの政治論争の材料になるドラマ‥。
現在、”韓国ドラマ王国”という称号を手に入れた、tvNが遭遇してしまった”危機”とは、まさにこれなのだ。
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