ソ・イングクの主演ドラマ、KBS(Netflix)『美男堂-事件手帳』の制作現場で起きた、ある議論。それは、労働基準法を違反したと訴えた現場スタッフを、事実上解雇したという問題だ。これに声を挙げたのが、2007年にドラマ『コーヒープリンス1号店』を手掛けたプロデューサー、イ・ウンギュ氏。長年制作に携わってきた、ドラマ界の大物PDと呼ばれる彼が語った、その実情とは。

ソ・イングクとオ・ヨンソが主演する新ドラマ、KBS(Netflix)『美男堂-事件手帳(以下、美男堂)』が、6月27日よりスタートした。

ドラマ『美男堂-事件手帳』が初放送を迎えたが、制作現場では‥

初放送を迎えたドラマ『美男堂-事件手帳』だが、制作現場では‥(画像出典:KBSドラマ公式Instagram)

韓国国内はもちろん、海外のドラマファンからも期待が寄せられている作品なのだが、制作現場ではスタッフの労働環境問題が、議論となっているのをご存じだろうか。

ドラマ撮影の労働環境は”過酷”そのもの

『美男堂』は、昨年12月から撮影がスタート。間もなく「撮影スケジュールがハードだった」と、現場スタッフから声が挙がっていた。

彼・彼女らは撮影期間中「たったの3、4時間ほどしか寝られず、1日に15、16時間働いてきた」と言及。

制作会社との契約書には”1日13時間労働”、”労働後の休憩時間は8時間”と明示されている。それ自体が労働基準法違反であるのだが「それさえも守られなかった」という指摘だ。

スタッフの労働問題に対しても注目を集めてしまった、人気俳優が集結した話題作

人気俳優が集結した話題作であるが、スタッフの労働問題に対しても注目を集めてしまった(画像出典:KBSドラマ公式Instagram)

過酷な業務が続いたため、技術チームスタッフは再契約の際、制作会社に対して「労働基準法の遵守、及び労働時間の短縮」を要求。

だが、制作会社側はこれを受け入れないどころか、異議を申し立てたスタッフとの再契約を拒否、事実上解雇する。あるスタッフによると、『美男堂』の現場は、集団解雇された後も長時間労働問題が続いていたという。

ドラマ界の大物PDが語る、残酷な実情

本作の初放送と製作発表会が予定されたこの日、映画・ドラマスタッフ労働者と、前・現制作関係者たちが、ソウルにある労働人権センターに集結。

彼らは”『美男堂』製作発表会で話されないこと”を主題に、「ドラマスタッフが労働者と認められても、労働法違反に対し問題提起することは難しい」という現実を明かした。

ドラマ『コーヒープリンス1号店』は日本でも話題を集めた

日本でも話題を集めた、ドラマ『コーヒープリンス1号店』(画像出典:MBC)

ここに、元MBCドラマ局長のイ・ウンギュ氏が参加した。

彼は、MBCの代表作とも言える『田園日記(1980-2002)』や、『コーヒープリンス1号店(2007)』を手掛けた敏腕PD(プロデューサー)だ。

イ・ウンギュ氏は、今回の記者懇談会に参加した理由を「スタッフたちの映像に対する情熱がなければ、ドラマ労働チームは動くことができない。その気持ちを悪用し、やりがい搾取するシステムは犯罪の巣窟」と言い「それを変えようともがく人間を抑圧し、切り捨てながら守ってきた悪しき習慣」と話した。

また、PD時代に現場で体験したつらい過去も告白する。

「罪の意識がある」と話し始めたイ・ウンギュ氏は、過去の制作現場の過酷さを語った。

当時、ドラマは1日に18~19時間、週に6日半というハードスケジュールで撮影が行われていた。そんな中、ある一人のスタッフが過労死する。

そのスタッフは、週末の連続ドラマを明け方まで編集しており、機材の前に座ったまま息絶えていたそうだ。

この事件が起きてから、イ・ウンギュ氏はPDたちに制度を変えようと提案したが、現在も変わっていないという。

放送局側は一貫して「当社が制作したドラマではない」

華やかに見える放送業界だが、そのシステムは複雑だ。

今回の件で言えば、制作に携わる人々は放送局の雇用ではなく、ドラマ制作を委託された制作会社に所属している。そのため、問題がさらに深刻だ(日本のテレビ番組も、ほとんどが似たような構造である)。

担当弁護士によると、「全ての問題は、スタッフに労働法を”適用しない”ということから始まっている」という。

また「『美男堂』制作会社とスタッフが結んだ契約書は、”勤労時間”、”手当て”、”延長勤労”、”夜間勤労”に対する表現もなしに、”日当”の2文字で全て合わさったもの」と指摘。さらに「全てのスタッフを、勤労者と判断している。こういう状況の中にもかかわらず、勤労契約書を書かないので法違反の状況が乱発される」と説明した。

契約問題、集団解雇という事態発生について、該当作の放送局であるはずのKBSは「KBS制作のドラマではない」という立場を取り、責任を取ろうとしない姿勢に対する批判も出ている。

KBS側は、自社制作ではないことから、法的責任がないように話題から回避しようとしているが、実際のKBSドラマ(に対する制作会社の)契約書を見れば、文言が統一されていることが明らか。制作会社が、任意にしたとは考えにくいという指摘だ。

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『コーヒープリンス1号店』が放送されてから15年もの年月が経った。しかし、ドラマ制作の現場における残酷な状況は、当時から一切改善されている様子がない。

もう過去の”当たり前”が”当たり前”であってはいけない時ではないだろうか。

世界的な人気を誇るコンテンツとなった韓国ドラマだが、その闇は深い。

(構成:星野沙)







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