韓国で活躍する中国出身アイドルが自身のSNSに、”抗美援朝(こうびえんちょう)”と関連した投稿を行ったとし、韓国で議論が巻き起こっているという。”抗美援朝”の意味とは? そして韓国人が「K-POPグループで活動する中国人アイドルに、制裁を加えるべきだ」と主張する理由とは
何か事が起きる度に、韓国青瓦台(大統領府)の請願掲示板がざわつく。
それは、政治や社会的なイシューだけにとどまらない。K-POPアイドルも例外ではないのだ。
アイドルの活動休止や、パワハラ問題で世間を騒がせている韓国芸能界に、もう一つの議論が巻き起こっていた。その議論とは、中国出身のアイドルたちが、自身のSNSに書き込んだとされる”抗美援朝(こうびえんちょう)”に関するものである。
“抗美援朝”
聞き慣れないこの言葉の意味は、一体何だろうか。
中国は日本と違い、アメリカの漢字表記”米国”を”美國”と記しており、”抗美援朝”とは朝鮮戦争における北朝鮮への軍事支援を意味する(美國に抗い、朝鮮を支持)。
軍事境界線を挟んで対立していた北朝鮮と韓国。北朝鮮は武力による統一を目指し、1950年6月25日、軍事境界線を超え”南侵”を決行。これを受けて、米国が直ちに韓国に軍事支援を送り、中国は同じ共産主義国家の仲間として、北朝鮮へ援軍を送った。
結局、この戦争は決着がつかず、当事者間の協議を経て1953年7月27日、休戦協定を締結。今日に至るまで朝鮮半島の北と南は休戦状態だ。
今年は中国にとって、”抗美援朝70周年”を迎えた記念すべき年である。昨今、米中間の勢力争いの加速化による睨み合いが激しさを増す中、中国としては、米国と互角(?)に渡り合えた70年前の”実績”をアピールすることにより、国民の愛国心を鼓吹するという思惑も無くはないだろう。
去る23日には、大々的な記念行事が行われ、習近平(しゅう きんぺい、シー・チンピン)総書記は、国家指導者としては20年ぶりとなる、”抗美援朝”を記念する演説を行った。他にも、中国の有力者たちが次から次へと”抗美援朝”の精神を褒め称え、継承すべき偉大なものと、中国国民へ発信している。
そんな中、韓国で活躍中の中国出身アイドルたちもSNSで”愛国心”を煽るような一言を添えている。
その面々を見ると、EXOレイ、f(x)出身のビクトリア、PRISTIN出身のギョルギョン、宇宙少女のソンソ、ミギ、ソニなどがいる。

EXOレイ(左)、ビクトリア(右)(画像出典:EXO公式FaceBook、ビクトリアInstagram)
一連のSNSを見た大多数の韓国人は、”彼らは「抗美援朝、70周年! 英雄たちに敬意を!」などの書き込みをしながら、米国による”侵略戦争”という見方を露骨に出している!“という見解を持った。
そのために神経質になり「K-POPグループで活動する中国人アイドルに、制裁を加えるべきだ」と主張、青瓦台の請願掲示板の投稿に至っている。
しかし中国芸能人の”政権賛美”は、今に始まったことではない。
かつて韓国の人気俳優であるソン・スンホンとの公開恋愛(2018年破局)や、ディズニー映画『ムーラン』のヒロインとして注目を浴びた女優リウ・イーフェイは、香港の民主化デモに対し、”警察を支持する”という発言を自身のSNSに投稿したことがある。

過去、交際していたソン・スンホン(左)とリウ・イーフェイ(右)(写真提供:©スポーツ韓国、画像出典:ソン・スンホンWeibo)
彼女の投稿により、2019年に『ムーラン』の観劇ボイコット運動がSNS上で展開される羽目となった。
(関連記事)ディズニーの映画 ‘ムーラン’ ボイコット‥なぜ韓国ではソン・スンホンの名前が?
中国芸能人の”歴史認識”と”政治性向”に対し、黒白付けようぜ! という議論は簡単ではない。
何故なら、国の歴史教育と愛国心というものは、他国の人からすると、到底理解できないものであるからだ。
例えは悪いが、サッカーのAマッチで、オフサイド判定によってゴールが無効になると、一方の国民は「正しい判定だ」と盛り上がり、また一方の国民は「審判が買収された!」と怒るのと同じようなものではないかと思う。
中国芸能人のような、韓国国民から見れば”歪んだ認識”を、実は韓国芸能人も発信した前歴を持っている。
それは日本に対するものが多く、歴史問題や領土問題に触れる発言が主となっている。
韓国の一国民として、その”認識”は少なくとも、彼らの住む国では”ごく当たり前”なことであり、且つ老弱男女が知る正しいものである。
しかし、日本国民からすると、到底愉快なものではない。両国の”歴史認識のズレ”は、上述したような”オフサイド”判定のように、どちらが合っていて、どちらが間違っているという判断が、専門家でない限り(専門家でも難しい面があるくらいだ)容易に口にしてよいものではない。
そもそも、一方の”満足”のために、もう一方に不愉快な気分にさせるような言動は、問題があるのではないか。「口を慎め」ということではないが、せめて専門家の立場で物事を言える事案ではない限り、時には沈黙という”処世術”も必要ではないだろうか。
今回の中国アイドルの言動は、過去、韓国芸能人の”前歴”と似たような側面を持っている。
中国アイドルも、韓国アイドルも間違っているとは断定できない。しかし、他方に不快感を与えたという事実だけ見れば”どんぐりの背比べ”そのものだ。
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