ラジオDJであり、韓国大衆文化ジャーナリストであり、韓流ファンミーティングMCのパイオニアである古家正亨さんの連載コラム『古家正亨の韓々学々』!第4回目は『日本語ヴァージョンのCD』について、古家さんが見解を述べています。物事には何事にも理由がありますが、これを読めば納得するかも!?

アンニョン! 古家正亨です。今回はいろんな方から質問される“どうしてK-POPアーティストは日本で日本語ヴァージョンのCDをリリースするのですか”ということについて考えてみたいと思います。

こういう質問が出てくる理由としては、つまり、韓国でリリースされた曲は、今や、CDも簡単に手に入りますし、ネットでも自由に見聞きできますから、あえて韓国盤を日本仕様にして日本で発売する必要はないだろう‥しかも、「日本語で歌う必要はないのでは? という考えですよね。もっと簡単に言えば「だって、欧米のアーティストだって、日本でCD出しているけど、原曲そのままじゃない!」っていうことだと思うんですが、別にこれって、ファンだけが思っていることではないと思います。でもこれは、ビジネス上、不可欠な問題があるからなんですね。

洋楽カバーで爆発的ヒットを放ったWink(左)と荻野目洋子(右)。

80~90年代に洋楽カバーで爆発的ヒットを放ったWink(左)と荻野目洋子(右)。(画像出典:POLYSTAR RECORDS / ライジングプロダクション )

日本は世界第2位の規模を誇る音楽市場を持つ国ですが、一方で特殊な環境を誇る国であることも理解しなくてはいけません。日本における洋楽市場は、2018年ベースでいうと、たった16%なんですね。日本では日本語で歌った邦楽が圧倒的その市場のシェアを握っているのです。もちろん、その洋楽市場においても、例えば、マライア・キャリーの『ALL I WANT FOR CHRISTMAS IS YOU』のようなミリオンセールスもあり、市場が小さいから、ヒットがないと言うわけではありません。ただ、市場規模が小さいと言うことは、ヒットのチャンスがそれだけ小さいと言うことでもあります。

そこで、どうしたのかと言えば、洋楽アーティストでも、より稼げる日本的なビジネスモデルを作ったわけです。それが、日本のアーティストによる洋楽カバーです。特に1980年代から90年代にかけて、数多くの洋楽のヒット曲が日本人アーティストによってカバーされました。それは、その楽曲で発生する著作権料が、作詞家、作曲家といった、その楽曲を作った人に入るというビジネスモデルを作ることで、たとえ市場が小さくても、日本は、音楽市場として魅力的なんだと言うことを世界に示したかったわけですね。

彗星のごとく日本音楽市場に現れたBoAも、日本デビュー19年を迎えた。

日本音楽市場に彗星のごとく現れたBoAも、今年で日本デビュー19年!(画像出典:BoA 公式Instagram)

言葉の壁もありました。日本語を話す人は世界に2億人もいません。一方英語は、17.5憶人で、世界で最も話されている言語です。ところがご存じの通り、日本人の英語力は、世界でも最低水準。特に、文法に特化した学習は、言葉なのに話すことができないという致命的な問題を我々は抱えてきたわけです。つまり英語詞の曲を聞いても、意味が分からない‥雰囲気で楽しむ。それが日本における洋楽の限界の1つの背景にもありました。だからといって、QUEENなど一部のアーティストを除いて、日本のファンのために日本語で歌ってくれる欧米のアーティストはほとんどいなかったわけです。

ところが、アジア圏においては、ちょっと違った状況がありました。日本を除くアジア各国のほとんどは、80年代から90年代にかけて、音楽著作権に対する考えも希薄でしたし、ほとんどの楽曲は買取制で、たとえ曲が売れても、作詞、作曲家や歌手が大儲けできる時代ではなかったんです。ところが日本はアジアでも先進的に著作権に関する、いわゆる権利に関して(アメリカとの貿易の関係もあり、導入せざるを得なかった背景はありますが‥)はかなり厳しく、そして、アーティストたちの権利が守られていたこともあり、アジアのアーティストたちは、日本のような音楽環境で音楽を奏でることに対する夢や希望、憧れがあったんですね。当時、日本はアジア唯一の先進国と言われていましたし。

そういう背景もあって、アジアのアーティストたちは、日本で歌うことを望んだ方が多くいたわけです。そこに日本特有の外国語楽曲に対する言葉の壁のため、アジアのアーティストが進出する際に、日本語でカバー、ないし日本語オリジナル楽曲を歌ってもらうことは、双方にとってのWinWinでもあり、ごく自然に定着していったといわれています。そして、それがまさに古くはパティ・キムやチョー・ヨンピルといった歌謡曲世代の歌手、そして2000年代に入ってからはBoAや東方神起といった初期のK-POPアイドルの日本進出の際の記録的なヒットと人気につながったのは言うまでもありません。

日本でのK-POPアイドルの道を切り開いた立役者、東方神起。

日本でK-POPアイドルの道を切り開いた立役者の1組、東方神起。左は日本盤で右は韓国盤ジャケット写真。(画像出典:(C)RS / S.M. ENTERTAINMENT)

ただ、時代は大きく変わり言葉の世界においてもマイノリティー、マジョリティーの区別よりも、こと音楽の世界においては、原曲の良さがインターネット時代と相まって、その魅力が簡単に世界のファンと共有できるようになると、「あえて日本語ヴァージョンの必要性はあるのか?」という疑問が生まれても不思議ではありません。世界同時配信や翻訳機能の発達など、技術のおかげで、よりマジョリティーな言葉に置き換えなくても、それそのものがヒットする環境が整いつつあるからです。

それでも日本語ヴァージョンが絶えずリリースされ、そしてその度にその是非が議論されることを、アーティスト側も、そして制作者側も決して望んではいないと思いますし、日本で活動し、音盤および音源を売ろうとしているアーティストの日本進出が続く限り、それは永遠と繰り返されるはずです。

ただ、僕はファンの皆さんに、この日本語ヴァージョンが決してビジネスとして存在しているだけではないことをわかってほしいと思います。というのも、以前、韓国のバラードの皇帝と呼ばれ、日本でも映画『猟奇的な彼女』の主題歌『I BELIEVE』を歌い、よく知られているシン・スンフンさんとこの件について話した際、シンさんはこう仰っていたんですよね。

「いくら韓国の歌が好きでも、韓国語を理解しながらその歌に込められた想いを100%理解しながら聞いてくれる、そんな外国人のファンが果たしてどれだけいるでしょうか。特にバラード曲の詞を理解するのは、難しいと思うんです。なので、歌手である僕たちから、日本のファンの皆さんに寄り添う必要があると思うんですね。僕らがスタッフさんや日本語が理解できる人に、韓国語の原詞の意味を守りながら日本語詞に直してもらい、1つ1つの意味をしっかり教えてもらいながら、歌手として、日本語の歌声で歌い届けた方が、よりストレートに歌に込められた想いが日本のファンの皆さんに伝わるじゃないですか。もともとその歌に込められた想いを一番理解しているのは、歌っている本人なのですから」

日韓でバラードの帝王で知られるシン・スンフン。

日韓通してバラードの帝王として知られるシン・スンフン。(画像出典:シン・スンフン 公式Instagram)

この話をシンさんから伺った時に、もやもやした気持ちが晴れたといえばいいでしょうか。そんなことを思いながら、日本語で歌ってくれている韓国のアーティストがいるということにとても感動しましたし、少なくても、そんな気持ちで、歌ってくれているってわかっただけで、日本人のファンとして、本当にうれしいですし、誇らしいですよね。

いくら市場規模が大きいとはいえ、世界のすべての言葉のヴァージョンでレコーディングしているわけではないんですから、そういう意味で日本のK-POPファンは、ある意味恵まれていると考えるべきだと、僕は思ったんですね。

K-POPアーティストが「日本語ヴァージョンのCDを出す理由」には、もちろんビジネス的な側面も当然あります。でも、それに対するシン・スンフンさんの回答は、普段僕らが抱いている日本語ヴァージョンに対する思いとは違った、本来理解すべきアーティストの「心」があるように感じてならないのです。

コラム『古家正亨の韓々学々』の筆者-古家正亨

コラム『古家正亨の韓々学々』の筆者-古家正亨

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古家正亨(ふるやまさゆき)
ラジオDJ /テレビVJ /MC /韓国大衆文化ジャーナリスト
レギュラー:
NHKラジオ第1「古家正亨のPOP★A」(毎週水曜 21:05 – 21:55 生放送)
FM northwave「Colors Of Korea」(毎週土曜 11:00 – 11:30)
CROSS FM「深発見!Korea」(毎週土曜 18:30 – 19:00)
InterFM897「TALKIN’ ON SUNDAY」(毎週日曜 朝7:00 – 8:00)
Twitter:@furuyamasayuki0

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