- 8月2日公開の韓国映画『THE MOON』は、総製作費300億ウォン以上と言われる“超大作”。
- しかし、公開2週目での韓国国内の観客動員数は約48万人と、目標の600万人には届きそうにない状況だ。
- 不振と言われる原因には、観客を無理やり泣かせようとする“新派”的な演出を指摘する声が上がっている。
7月26日に韓国で公開された映画『密輸』が、観客動員数400万人を突破した。
本作は、キム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソンといった豪華な顔ぶれと、映画『ベテラン(2014)』『モガディシュ 脱出までの14日間(2021)』などヒットメーカーのリュ・スンワン監督の新作ということもあり、公開前から注目が集まっていた。
韓国映画の興行は、損益ゼロの売上高を示す“損益分岐点”が重要な指標となっているが、観客400万人動員の『密輸』は、公開から17日目にして“損益分岐点”をクリア。
2023年公開&損益分岐点を超えたのは、5月31日公開の『犯罪都市3』に続く、2番目の快挙である。
しかし、その一方で、今夏は巨額の製作費を投入した“超大作”の公開時期が重なっていることも影響し、残念ながら苦戦を強いられている作品もある。
8月2日に公開された『THE MOON』である。
本作は、韓国歴代3位となる観客動員数1,441万人を記録した映画『神と共に(2017、2018)』シリーズのキム・ヨンファ監督の初のSF映画で、且つ月探査を題材にした初の韓国映画として大きな期待が寄せられていたが、動員数は伸びていないようだ。
『THE MOON』は、不運な事故で宇宙に取り残されてしまった1人の隊員と、彼を無事地球へ帰還させようとする元宇宙センター長の奮闘を描いた感動大作。
出演は、ソル・ギョング、EXOのD.O.(ディオ/ ド・ギョンス)、キム・ヒエ、パク・ビョンウン、チョ・ハンチョルと、こちらも豪華な俳優陣が揃っている。
総製作費も、300億ウォン以上(約30億円)と破格の値。それだけに、損益分岐点は600万人動員と、かなり厳しい目標値が掲げられた。
しかし、公開2週目時点(8月13日基準)での観客動員数は、約48万人と不振。
本作は、韓国の大手シネコンCGVをチェーンに置いているCJ ENMの作品のため、上映館の確保という面では有利だったが、期待された成績に繋がらず、このままコケてしまうのではないかと言った声も上がっている。
韓国ネットの反応を見てみると、宇宙を舞台にしたSF作品として、VFXなど特殊効果は高評価のようだが、なぜ不振に陥っているのか?
その理由としては、ストーリーに、SFと“新派”という相反するテーマが盛り込まれ、その2つの要素がぶつかってしまったことが作品の完成度を下げた原因だと指摘する声が見られた。
この“新派”という言葉は、日本で言うところの「お涙頂戴モノ」を指しており、韓国では作品を批評する際に使われ、否定的なニュアンスを含んでいる。
若い世代の観客層は、新派的な演出に拒否反応を示す人も多いことから、『THE MOON』には、無理くり感動や涙を引き出そうとする意図が感じられるといった反応が上がったのである。
実は、昨年(2022年)の夏も、超話題作と言われていたにも関わらず、韓国国内での成績が振るわなかった作品があった。
ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、キム・ナムギル、イム・シワン、チョン・ドヨンなど豪華俳優陣の共演が実現した映画『非常宣言』である。
失敗の理由の一つとして指摘されたのが、『THE MOON』同様、ストーリーに“新派”要素が盛り込まれたことだった。
『非常宣言』は、ハワイへ向かう飛行機の中で、化学テロにより乗客が次々と死亡し、恐怖と混乱の渦に包まれていく航空パニック映画。
手に汗にぎる緊張感あふれる展開が続くが、後半に押し寄せる「お涙頂戴」の演出が、新派に抵抗がある観客の没入度を一気に下げてしまったのだという。
結果、大ヒットが期待された『非常宣言』の最終観客動員数は約206万人に留まり、損益分岐点500万人の半分にも満たなかった。
そして今、「『非常宣言』の二の舞になった」との評価も下されている『THE MOON』。
制作側としては、作品のメッセージをうまく伝えようとするものの、「ここで泣かせたい」というあざとさが見えてしまえば、観客は冷めてしまう。
感動モノを描く際は、涙を誘うシーンであっても、観客の目に、感動を強要するように映ってしまってはいけないという難しさがあるが、不振と言われる作品の共通点に挙げられる“新派”が、韓国映画のこだわりにも感じられる。
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