世界の映画ファンから多くの関心が寄せられている第25回 釜山国際映画祭。今年の映画祭を飾る作品の中でも特に注目を集めたのが、”ポスト『パラサイト 半地下の家族』”との呼び声が高い、アメリカ映画『Minari(ミナリ)』だ。

新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込みを見せている映画業界。韓国もこれに漏れることなく、切ないほどに活気を失っている。

そんな中、映画業界に射し込んだ希望の光とも言うべき”第25回釜山国際映画祭”が開幕した。

第25回釜山国際映画祭ポスター

第25回釜山国際映画祭ポスター(画像出典:第25回 釜山国際映画祭公式サイト)

今年の映画祭は観客の安全を最優先し、作品の上映を中心に行われる。
会場内にある6つのスクリーンでのみ上映され、開・閉幕式および野外イベントはすべて中止となった。また、座席は映画館別に25%だけを販売し、チケット発券も全てオンラインでのみ行なわれる。

前年度に比べて約100本ほど減ってしまったが、今回の映画祭では68カ国192本の作品が上映される。その招待作の中でも特に耳目が集まったのが、アメリカ映画の『Minari(ミナリ/原題)』と日本映画『スパイの妻』だ。

女優のユン・ヨジョンとハン・イェリのハリウッド進出作品としても知られる『Minari』は、希望を求めてアメリカの移民への道を選んだある家族の物語を描いている。
今年のサンダンス映画祭、アメリカ映画部門で最高賞に相当する”審査委員大賞”と”観客賞”を受賞して話題を集め、早くも来年のアカデミー賞での”ポスト『パラサイト 半地下の家族』”として高い期待を寄せられている作品だ。

映画『Minari(ミナリ/原題)』(画像出典:第25回 釜山国際映画祭公式サイト)

本作はアメリカンドリームを夢見る移民者たちの生活を淡々と描いているが、これまで似たような素材を盛り込んだ作品とは一線を画している。人種差別、移住民に排他的な社会の雰囲気、つまり典型的な葛藤要素を排除し、人物の話に集中しているのだ。
広々とした青い野原、車輪のついた家、昔のテレビ、作品のタイトルである植物のセリなど、華やかではないが見れば見るほど意味のある背景を映像に収め、しっかりと世界観に入り込める作品に仕上げた。

劇中では、韓国系アメリカ人俳優のスティーヴン・ユァンとハン・イェリがそれぞれの位置で家族のために最善を尽くす夫婦に扮し、祖母を演じたユン・ヨジョンは物語の中盤に登場して、ストーリーに活力を吹き込んでいる。
特に、母方の祖母と孫たちが経験する文化的葛藤を適材適所に配置して些細な笑いを引き出し、異質的な2世代がひとつになる姿を共感できるように描かれている。

本作は、韓国系アメリカ人のリー・アイザック・チョンがメガホンを取り、監督と俳優ともに韓国人が揃って製作したという点でも話題を集めている。
また、リー・アイザック・チョンは、日本のアニメ映画『君の名は。』(新海誠監督)のハリウッド・リメイク作で監督を務めることが報じられ、日本からも熱い視線を集めている存在だ。

『スパイの妻』

映画『スパイの妻』(画像出典:第25回釜山国際映画祭公式サイト)

一方、日本映画『スパイの妻』は、韓国でカルト映画の巨匠と呼ばれる黒澤清監督の新作であり、今年のベニス映画祭で”監督賞”を受賞したことでも多くの注目を浴びた作品だ。

本作は、NHKで放映されたスペシャルドラマを再びスクリーンに移した映画で、1940年代の日本を背景に貿易業を営む夫がスパイと疑われる妻の姿を描いている。女優の蒼井優が妻の聡子役を務め、俳優の高橋一生や東出昌大とともにストーリーを展開していく。

目標と愛の間で彷徨う人物たちの葛藤をきめ細かく描き出し、さらに後半部に行くほど反転を繰り返すため最後まで結末を予測することが難しい。
この過程で起こる主人公たちの孤軍奮闘が、疑心暗鬼渦巻く狂乱の時代と密接に結びつき重いテーマ意識をあらわしている。

一方、第25回釜山国際映画祭は10月21日から30日まで開催される。






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