ラジオDJであり、韓国大衆文化ジャーナリストであり、韓流ファンミーティングMCのパイオニアである古家正亨さんの連載コラム『古家正亨の韓々学々』!
第6回目は、日々進化する音楽メディアについて。新形態“キノアルバム”とは果たしてどんなものなのでしょうか? とても読み応えのある内容です!
最近、いろんな人に「どうして韓国のCDを買うと、CDじゃなく、不思議なイヤフォン・ジャックのようなものしか入っていないのか」という質問を多々受けます。

囲みの中でスマホに挿し込まれているのがキノアルバム。(画像出典:KiT Album レクチャー動画キャプチャー)
でもこのKihno ALBUM(以下、キノアルバム)(※商品名はキノアルバムですが、もともと採用された技術形態、そのものの名前がキットと呼ばれるものなので、KiT ALBUMとも呼ばれています)と呼ばれるもの、その技術を開発したのはソウルのミューズライブという会社で、2014年の段階で技術自体は確立されていたものでした。でも本格的に普及し始めたのは2018年頃からで、大手のレコードレーベルや芸能事務所がCD以外のメディアとして採用し始めたことで火が付き始めたんです。
なぜ大手が採用することになったのかと言えば、HANTEOチャートやGAONチャートが、このキノアルバムの売り上げを音盤セールスに加えることにしたからで、CDと同様の扱いを受けることになったからというのが一番の理由でしょうか。
このキノアルバム、構造自体は単純でスマートフォンのイヤフォン・ジャックに、チョコレート2かけら分ぐらいの大きさの、アルバムジャケットがプリントされたペンダント状のジャックを差し込むことで、事前にインストールしておいたスマホアプリ“KiT Player”が起動し、使用可能になります。僕らの業界でよく使われる、(複製防止のために)DTMソフトを起動するため、PCにUSBキーというものを差し込まないとソフトが起動しないというケースが、高額なソフトウェアを使う際に要求されるんですが、そのキーの役割を果たしているといえばわかってもらえるでしょうか。
これを利用することで、アルバムに収録されている音源そのものはもちろん、歌詞データやアルバムに同梱されている冊子のビジュアルデータ、さらにミュージックビデオなどへのアクセスもダイレクトで可能になり、専用アプリを使って再生するので、所有者や機種によってまちまちなスマホの音楽再生機能の内容を問わず、同じ環境で好きなアーティストの音楽を楽しめるという優れものとなっています。
そもそもこのキノアルバムには、韓国の音楽業界の危機的な状況を克服するという使命が課せられていたんです。誕生当時の2014年と言えば、K-POPが世界的な人気を博していましたが、韓国国内のCDアルバムのセールスは下降線をたどる一方でした。ただその分、ストリーミング市場は拡大し、音源利用者は大きく増えたのですが、既存のアルバム市場に比べ収益性は大きく悪化。具体的には、ストリーミングの定額料金制基準で1回当たりの再生で発生する収益は7ウォン(日本で約0.6円)と言われていますが、そのうち作詞、作曲、編曲者は0.7ウォン(10%)、歌手と演奏家は0.42ウォン(6%)しか受けることができないんです。もちろん、それから6年たった2020年現在では、世界的なストリーミング市場の拡大によって、状況は改善されているとはいえ、当然CDが売れた時の方が、収益はその何倍にもなりますから、固定収入としての音盤に対する業界のニーズは非常に強かったんです。でも問題は再生環境にありました。

缶バッジ型音楽プレイヤー「PLAYBUTTON™」(画像出典:Amazon)
韓国でもCDプレイヤーを持つ家庭は激減。PCについているCD-ROMプレイヤーで再生されることが圧倒的多くなる中、PCのプレイヤーレス化も加速し、あっという間に社会はクラウドですべてを完結できるような時代になりつつあります。そして、音楽はスマホで聴く人が増え、CDで音楽を聴くことが、物理的に難しくなってきました。ですが、日本も同様、物理メディアで好きなスターの音源を持ちたい人のニーズが一定層あり、そういった人たちに向けた新しい音楽メディアという形で生み出されたのが、キノアルバムということになります。
ただ、日本でもPlay ButtonのようなCDの代わりにアルバム完結型の、それそのもので音楽が聴ける携帯型アルバムプレイヤーを発売してきましたが、残念ながら業界の思惑に反し、決して普及した、人気を得たというものではありませんでした。韓国も同様で、2006年にリリースされたSg Wanna Be+の第3集で試験的にCDではなく、アルバム楽曲のみを収録し、拡張機能をつけないMP3プレイヤーを同梱したアルバムをリリースしたり、BIGBANGのG-DragonさんがUSBアルバムをリリースしたり、果敢に新しい形態の音盤リリースに取り組んできましたが、CDにとって代わるメディア革命を起こすような大きな成功を収めたものはありませんでした。

発売当時、賛否を呼んだG-DragonのUSBアルバム。
ところがキノアルバムに関しては、それなりの成功を収めているようです。理由の1つには、K-POPの世界的人気に伴い、音源ではなく、グッズとしての音盤の価値が高まり、アーティストグッズの1つとして、CDよりも自由度の高いキノアルバムの人気が高まったこと。そして、ほとんどの人がスマホで音楽を聴くようになり、かつてのような再生メディア競争のない中、スマホという共通メディアで、キノアルバムという1つのプラットフォームによる音楽の供給が可能になり、利用者の敷居を低くすることができたことが挙げられます。

音楽機器はもはや跡形もなく…。(画像出典:pixabay)
もちろん、課題も山積みにしています。基本、韓国国内向けに開発されているメディアですから、世界覇権に至っておらず、UIなどのユニヴァーサル化が遅れていること。また、スマホのイヤフォン・ジャックの廃止が進む中、アダプターを介した利用が不便さを助長させていること。また最近開発された無線接続型のキノアルバムだと、キノアルバムをわざわざ導入しなくても、そのままネットで動画投稿サイトが音源サイトを使って同様のサービスをより低価格で受けられるため、キノアルバムの必要性が薄まってしまった‥などなど、その存在意義まで問われるようになってきています。しかも、アプリ利用の際は、無線接続が基本というところも、オフライン環境での利用に限界を感じてしまいます。
ただ、グッズとしてキノアルバム用にオリジナルジャケットを作ったり、付録や特典がCDと違っていたりと差をつけることで、音楽メディアとしての評価というより、ファンのコレクターズアイテムの1つとして人気を得ているので、一定の売り上げは確保できていることから、すぐに廃れることはないと、個人的には思います。
世界的なK-POP人気を受けて、この形態の音楽メディアが、世界的に普及するのか。それとも、グッズの1つとして、メディアとしては忘れられていくのか。誕生から6年目のキノアルバムですが、1つ言えることは、これまで韓国の音楽業界が果敢に取り組んできたCDに代わる代替メディアの開発という点においては、今までで一番成功したものということではないでしょうか。
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コラム『古家正亨の韓々学々』筆者-古家正亨
***
古家正亨(ふるやまさゆき)
ラジオDJ /テレビVJ /MC /韓国大衆文化ジャーナリスト
レギュラー:
NHKラジオ第1「古家正亨のPOP★A」(毎週水曜 21:05 – 21:55 生放送)
FM northwave「Colors Of Korea」(毎週土曜 11:00 – 11:30)
CROSS FM「深発見!Korea」(毎週土曜 18:30 – 19:00)
InterFM897「TALKIN’ ON SUNDAY」(毎週日曜 朝7:00 – 8:00)
Twitter:@furuyamasayuki0
BIGBANG
BIGBANG(ビッグバン / ハングル 빅뱅)は韓国出身の4人組男性アーティストグループ。
メンバーはG-dragon、TOP、SOL、D-LITE(元メンバーV.Iは2019年3月に芸能界引退)で、YGエンターテインメントに所属している。2006年に韓国でデビュー。メンバーは、MTVコリアの「リアルドキュメンタリーBIGBANG」を通して選ばれた。
2006年デビュー後から若い世代のファッション、トレンドに大きな影響を与えたグループであり、これ以降にデビューするアイドルグループのコンセプトなどにも影響を与えたグループだ。
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