ラジオDJであり、韓国大衆文化ジャーナリストであり、韓流ファンミーティングMCのパイオニアである古家正亨さんの連載コラム『古家正亨の韓々学々』!
今月より月1連載となりました。そして第7回目のテーマは、”第4次韓流ブーム”について。『愛の不時着』『梨泰院クラス』が日本のメディアを賑わせ、Nizi Projectが多くの日本人を虜にしていますが、これは本当のブームなのか? そんな疑問に一石を投じています。渦中にいると、盲目的に気が付かない事だなとしみじみ‥。
最近各マスメディアで踊る”第4次韓流ブーム”の文字。そして、その度にそれに関する質問を受けてきた僕ですが、果たして本当に”第4次韓流ブーム”が、ここ日本で起こっているのでしょうか? 個人的な見解は”NO”です。
この”第4次韓流ブーム”の起因として挙げられているのが、ドラマ『愛の不時着』と『梨泰院クラス』の人気ですが、この人気がこれまでとは違い、かなり局所的な人気になっているんですね。というのも、これらのコンテンツは大手映像配信サービスであるNetflixが独占配信しているもので、簡単に言えばNetflix以外では観ることはできません(不法で観ている人は別ですが)。
それもこの先、基本10年間は、Netflixでしか観られないわけです。コロナ禍において、映像配信サービスの人気は在宅時間が増えたため、絶好調です。アメリカ・ネットフリックスが4月に発表した2020年1~3月期の純利益は前年同期比2.1倍の7億906万ドル(約764億円)となり、過去最高記録。日本を含むアジア・太平洋(APAC)でも360万人も増加したようです。
Netflixは2019年9月の段階で、国内契約者数は300万人を突破していると言われていますから、現在は推測で500万人近くにまで加入者は伸びているのではないでしょうか。実はこの数字は、スカパー! やWOWOWといった有料衛星放送サービスの加入者数とほぼ同じ、ないしそれを上回るという数字になっています。
DVD市場、レンタル市場が強いと言われていた日本だけに、この映像配信サービスの普及は他国に比べて普及が遅いと言われてきましたが、結果的に外出が制限される中、コロナ禍という絶好の機会を得て、一気に身近なサービスになったと言えるでしょう。しかも有料会員数が1億8286万人(2020年4月Netflix発表)となったNetflixは、地上波テレビではもはや不可能になった1つのメディアとして、いや1つのインフラとして機能しつつあるのかも知れません。
当然、この1億人、2億人に迫ると言われる有料加入者から得られる資金力をバックに、Netflixはコンテンツの囲い込みに力を入れています。
キム・ナムギルさん主演の映画『パンドラ』(2016)の配信を皮切りに、本格的に始まったNetflixの韓国コンテンツですが、2019年1月から配信が始まったドラマ『キングダム』が、韓国のコンテンツ力を世界に知らしめるきっかけになったと言われています。200億ウォン(約18億円)という制作費を、Netflixが全額負担した初のオリジナル韓国産ドラマとして、ゾンビブームの世も相まって高い支持を得たこのドラマは、シーズン2も制作されるなど、韓国ドラマの制作力を内外に示す形になりました。
それ以降、韓国国内を除く世界契約という形で、Netflixが数多くの韓国ドラマを独占で入手。当初はハリウッドのオリジナルコンテンツや、欧米の作品がメインという印象の強かったNetflixでしたが、気が付けば(日本の場合)人気作品の上位を韓国ドラマが席巻。今後も、人気俳優パク・ボゴムさんの入隊前最後のドラマとなる『青春記録』をはじめ、韓国での話題作の多くがNetflixと独占契約を結び、配信されることになっています。今や「韓国ドラマといえばNetflix」というイメージを持つ人も少なくないでしょう。
と、Netflixの解説に文字数の多くを費やしてしまいましたが、ここからは今回のテーマとなります。本当に”第4次韓流ブーム”が、ここ日本で起こっているのでしょうか? ということですが、残念ながらこのNetflix独占というシステムが、僕がNOを唱える理由の1つなのです。
これまで日本における韓流ブーム、特に韓国ドラマの人気は、地上波テレビから火が付いたと言っていいでしょう。『冬のソナタ』『オールイン』『チャングムの誓い』といった作品は、NHKでBS波と地上波のリレー放送が功を奏し、幅広い層にそのドラマの魅力が波及しました。その後『美男<イケメン>ですね』がフジテレビの昼帯で放送され大ヒットするなど、有料チャンネルに未加入の人や、韓国・韓流に興味のなかった人に対しても、それを知るきっかけを与えたのが地上波での放送だったと言っていいでしょう。さらに有料チャンネルでの再放送、DVD・ブルーレイ化、そしてレンタルビデオを活用することで、多岐に渡るメディア戦略が日本の韓国ドラマ人気を支えてきました。
ところが今回の『愛の不時着』や『梨泰院クラス』の場合、10年間、Netflixでしかこれらの作品が観られないという状況にあり、Netflixに加入している人とそうでない人との温度差が大きく、事実、僕の周囲の韓流ファンはこれら2作品を観ていない、観られないという人が圧倒的に多いのです。韓国サイドからすれば、世界展開しているNetflixと契約することで、世界の視聴者をより簡素な手順で相手にできるメリットは大きいと思いますが、国によって、コンテンツの視聴環境は大きく異なり、これまで韓国ドラマを収益面から圧倒的に支えてきた日本市場の特性を、正直見誤っていることは否めません。
もちろん今後動画配信が主流になり、Netflixの加入者が日本国内だけで1000万人、2000万人を超えるようなサービスになれば、状況は大きく変わってくるでしょう。しかし国内には、加入者が最も多いと言われているAmazon Prime VideoやNizi Projectで勢いづくHulu、さらにそもそも韓流に強いとされてきたU-NEXTなど、多くのサービスがすでにあり、その中からどのサービスを選ぶかを選択することになるわけです。1人で多くのサービスに加入する人もいるかもしれませんが、コロナ禍の影響で個人消費が停滞する中での娯楽への拠出が限りある中、結局、一サービスによる作品の独占は、その作品の可能性を(少なくても日本においては)狭めてしまうことになってしまいます。
僕が先にNOと申し上げたのは、その広がりなくして、何をもってブームと言えるのかということなんです。ただNetflixでの独占配信のおかげで、20代・30代のこれまで韓国ドラマに興味のなかった世代に対し、その魅力が偶然広がり、『愛の不時着』『梨泰院クラス』の人気が、特にその世代で話題になったことは指摘しておかなくてはならないでしょう。
商売のためですから、独占という手法に対して否定的な見解を持っているわけではありませんし、それが新規顧客の獲得につながるのであれば、正当な手段と言えるでしょう。しかも、その独占が生む収益体質が、ドラマの制作費の向上につながり、作品の質がそれで上がるのであれば、ファンにとっても多くのメリットがあるはずです。
ただ、一時期の独占はあったとしても、せめて1、2年後の多メディア展開は、あって然るべきではないでしょうか。どんなに素晴らしい作品があったとしても、収支で多くのプラスが発生したとしても、それを多くの人たちに観てもらえない限り、作品作りにかかわるクリエイターたちにとっての本当の成功、そしてブームと言えるものが、そこにあるとは思えないんです。
***
古家正亨(ふるやまさゆき)
ラジオDJ /テレビVJ /MC /韓国大衆文化ジャーナリスト
レギュラー:
NHKラジオ第1「古家正亨のPOP★A」(毎週水曜 21:05 – 21:55 生放送)
FM northwave「Colors Of Korea」(毎週土曜 11:00 – 11:30)
CROSS FM「深発見!Korea」(毎週土曜 18:30 – 19:00)
InterFM897「TALKIN’ ON SUNDAY」(毎週日曜 朝7:00 – 8:00)
Twitter:@furuyamasayuki0
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