- 思悼世子(サドセジャ)を米びつに閉じ込めて殺害した事件“壬午禍變”は、息子であるイ・サンを悲しませた大きな出来事でした。
- 英祖(ヨンジョ)は、実の息子をなぜ、米びつに入れて殺害したのか‥。
- 朝鮮王朝史上稀代の事件と言われる“壬午禍變”、通称“米びつ事件”をご紹介します。
日本のテレビで繰り返し放送され、韓国時代劇の金字塔として多くのファンに愛され続けている名作『イ・サン』(MBC/2007)。
現在、CSのチャンネル銀河で放送中ですが、視聴者のなかには、物語の奥深さに心を打たれている方も多いのではないでしょうか。
本作の主人公である朝鮮王朝第22代王・正祖(イ・サン)が、生涯その胸に刻み続けた最大の悲劇、それが1762年に起きた“壬午禍變(イムオファビョン)”でした。
なぜ、イ・サンを深く愛した祖父で、第21代王・英祖(ヨンジョ)は、実の息子でありイ・サンの父である思悼世子(サドセジャ)を、米びつに閉じ込めて死なせるという凄惨な決断を下したのか。
朝鮮王朝史上稀代の事件で、世界的にみても猟奇的な近親殺人と言われる“壬午禍變”、通称“米びつ事件”をご紹介します。
父と子のすれ違いが招いた“負の連鎖”
悲劇がなぜ起きたのかについては諸説ありますが、現在有力とされているのが“負の連鎖説”です。
完璧主義の父・英祖と、自由な感性を持つ息子・思悼世子。この正反対ともいえる性格の違いが、やがて父子間の大きな溝を生むことに。英祖の厳しすぎる態度は、息子を追い詰め、やがて深刻な精神疾患を抱えるまでになってしまったと考えられています。
そしてその影響か、思悼世子が宮女ら100人余りを殺害するという出来事があったと伝えられており、ついには、夜中に刀を手に宮廷へ入り、父の寝込みを襲おうとしたのだとか。

『王の運命-歴史を変えた八日間』で思悼世子を熱演したユ・アイン(画像出典:naver movie)
こうした事態を重く見たのが、思悼世子の実母でした。彼女は王室を守るため、息子の処分を英祖に懇願。これがトリガーとなり、前代未聞の悲劇へとつながっていったと見られています。
また、思悼世子と対立していた勢力の存在も指摘されており、彼の非行を誇張して英祖に報告するなど、親子関係をさらに悪化させた可能性もあるとの見方も。
様々な要因が重なり合い、避けられない結末へ突き進んでいったのではないかと言われています。
朝鮮王朝稀代の事件“壬午禍變”
そして1762年、英祖はついに実の息子である思悼世子に自決を命じるという、あまりにも非情な決断を下します。
王に刃を向けた場合、処刑されるのが通例ですが、反逆者とみなせば思悼世子の息子であるイ・サンが罪人の子どもとなり、王位継承権を失ってしまうのを懸念したのが、自決を選択した理由でした。
しかし、思悼世子は応じようとはせず、処罰は難航。そこで英祖が取ったのが、米びつに閉じ込めるという前代未聞の方法でした。
米びつの中で命を落としたということにすれば、罪状を残す必要がないから。信じがたいことに、英祖は自ら蓋を閉め、鍵をかけたと伝えられています。

『王の涙 イ・サンの決断』(画像出典:映画『王の涙 イ・サンの決断』)
窮屈さに耐えきれず蹴り割って、一度外に出てきたこともあったそうですが、より頑丈なものが用意されて絶望的な状況に。米びつの中から何度も許しを請い、“王”ではなく“父上”と呼びかけたこともあったと言われていますが、一国の王としての責務があった英祖の決断は、最後まで揺らぐことはありませんでした。
毎日、米びつをゆすって生死を確認され、7日目にはほぼ反応がなくなり、8日目に命を落としたと言います。
米びつが開けられた際には、息絶えた思悼世子のそばに、一つの扇子が残されていたそうで、夏の暑い日に極限状態のなかで、自らの尿を飲んで喉の渇きをしのごうとしたのではないかとの推測が。
またこの過程では、当時わずか11歳だったイ・サンが、英祖に父を許すよう懇願したとも言われています。しかし、それが自発的な行動だったのか、思悼世子の意を受けたものだったのかは、現在も明らかになっていません。
描かれ続ける“消えない傷跡”
この悲劇は、韓国の映画やドラマで、幾度となく描かれてきており、作品ごとに分量や描き方に違いはあるものの、悲惨な事件としていまもなお韓国国民の間で語り継がれています。
例えば、映画『王の運命-歴史を変えた八日間』(2015)では、実力派俳優ソン・ガンホとユ・アインが英祖と思悼世子に扮し、小さな衝突が大きな確執となって悲しい事件へと発展する過程が描かれ、ヒョンビン主演の映画『王の涙 イ・サンの決断』(2014)でも、イ・サンの生涯に大きく影響した出来事として取り上げられています。
また、ハン・ソッキュ&イ・ジェフン主演のドラマ『秘密の扉 (SBS/2014)』では、 米びつ事件を異なる視点でとらえており、思悼世子は、『夜を歩く士<ソンビ>』(MBC/2015)や『赤い袖先』(MBC/2021)などにも登場します。
悲劇の背景を知れば、各作品の見え方が違ってくるはず。まだご覧になってない人はもちろん一度観たことがある人も、米びつ事件をはじめ悲しい結末を迎えた思悼世子が描かれた作品を視聴してみてはいかがでしょうか。
王の運命(さだめ)- 歴史を変えた八日間 –
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