時に優しい父、時に弟子を諭す師匠‥コミカルな役から重厚な役まで、幅広いキャラクターを演じるベテラン俳優のアン・ネサン。今や韓国を代表する俳優の一人としてその名を連ねているが、彼には犯罪歴があり、服役していた過去があることをご存じだろうか。

韓国ドラマを観た人なら、彼の名を知らなくても顔を見ればきっと分かる俳優、アン・ネサン。

現在のアン・ネサンからは想像もつかない運動家として活動していた。

現在の風貌からは想像もつかない運動家として活動していたアン・ネサン。(写真提供:©スポーツ韓国)

KBS2『成均館スキャンダル(2010)』では、男装して成均館に入学したキム・ユニ(パク・ミニョン)を、女性と知りながらもそっと見守る博士を演じ、KBS2『雲が描いた月明り(2016)』ではホラン(キム・ユジョン)の命の恩人であり、後に世子イ・ヨン(パク・ボゴム)とラオンの心強い味方となる儒学者を演じていた。

そんな人格者を演じているアン・ネサンだが、実は彼には服役の過去がある。

現在55歳のアン・ネサンは、延世大学出身という高学歴の持ち主。

アン・ネサンは『雲が描いた月明り』で若者を見守る儒学者を演じた。

『雲が描いた月明り』では若者を見守る儒学者を演じたアン・ネサン。(画像出典:YouTube KBS Drama 動画キャプチャー)

1988年大学入学当時、ソウルオリンピックを控えて、国全体が浮足立っていた。

しかし、*光州事件後に大統領となった全斗煥(チョン・ドゥファン)は冷戦下、米レーガン政権の支持を背景に強圧な軍事独裁体制を敷き、言論の自由を封じていた。批判の声を上げた市民は一人残らず拘束されるなど、この体制を嫌って北朝鮮に逃げる”脱南者”もいたほどだ。

*光州事件‥1980年5月18日から27日にかけて、韓国の光州市(現 光州広域市)を中心として起きた軍事政権奪還クーデターの市民抗議。死者154人、負傷者は1600人以上にも及んだ。当時戒厳軍は市内を制圧し、マスコミも情報統制され光州市内で起きていた真相は、長く明らかにされなかった。

光州事件を題材に制作された映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』

‘光州事件’を題材に制作されたソン・ガンホ主演映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』(画像出典:(C)2017 SHOWBOX AND THE LAMP. ALL RIGHTS RESERVED.)

そんな時代に、多感な青年期を過ごす事となったネサン青年は、例に漏れず民主化運動に参加、過激な行動に出る。なんと、アメリカ文化院に時限爆弾を仕掛けたのだ。

だが爆弾に何らかの支障が生じ、時限爆弾は作動せず、ネサン青年はその足で出頭し自首。銃砲・刃物・火薬類取締法違反で刑務所に収監され、8カ月間服役している。

事件発生当日の新聞にアン・ネサンの名がしっかり記載されている。

事件発生当日の新聞にアン・ネサンが自白したと記載されている。(画像出典:NAVER新聞アーカイブ、東亜日報1988年2月26日)

出所後に運動家をやめて俳優の道を志すようになったため、デビューは30歳と遅いが、その後の活躍は、大衆の知るところだ。

幸い”未遂”に終わったことで”俳優 アン・ネサン”が存在しているが、もし爆弾が爆発していれば”凶悪テロ犯”として世間に名を広めたかもしれなかったのだから、運命とは不思議なものである。







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