名前は知らないけれど、韓国ドラマを観ているとよく見かける俳優がいる。もしかすると、好きな俳優以上にその人たちを目にする機会が多いかもしれない、バイプレーヤー。チョ・ヒョンチョルもまた、そんな名脇役の一人であり、ドラマごとに変貌するキャラクターは”カメレオン”とも呼ばれている。
Netflix(ネットフリックス)で、8月27日より配信されているドラマ『D.P.─脱走兵追跡官─(2021、以下D.P.)』。
このドラマは、脱走兵を捕まえる*陸軍憲兵隊傘下の”軍務離脱逮捕組(D.P.)”の話を扱ったもので、軍内で起こる暴力や暴言、パワハラや人権問題をリアルに描いた衝撃的な作品だ。
*陸軍憲兵隊:主に軍隊内部の秩序維持と交通整理を任務とする部隊。軍事警察とも呼ばれる。
『D.P.』は放送後、社会的に大きな反響を呼び、実際に軍内で過酷な行為を経験したと暴露する事例も現れ、国防部と政界も『D.P.』に直接言及したほど。そして軍内の問題を見直すきっかけになったと言われている。
そんな『D.P.』に、チョ・ヒョンチョルという俳優が出演していた。
彼の役柄は、漫画好きの優しいオタク青年、チョ・ソクボン。こう説明すれば、彼の名は知らなくとも、「あの人だ」とわかる人が多くいるのではないかと思う。
そんな彼の魅力といえば、役ごとに雰囲気が180度変わる、カメレオン俳優な一面である。キャラクターへの憑依はその見た目から違い、同一人物だと認識するまで、時間がかかることがあるのだ。
例えばtvN『ホテルデルーナ(2019)』ではヨ・ジング演じるク・チャンソンの友人役を演じ、ハーバード大学卒のビビりな青年役をこなしたことは、記憶に新しい。
このドラマで彼を知った視聴者も多いのではないだろうか。
先程少し触れた、『D.P』でチョ・ヒョンチョルは、実に振り幅の大きい役を演じた。
先輩上等兵からの嫌がらせに耐えつつも、後輩を気遣っていた優しい青年が、終盤に向けて復讐に燃える青年へと、別人のように変わっていく。それはそれは、見事な演技力で演じ切った。
物語において重要な役を演じており、圧倒的な存在感を放っている。
そんなチョ・ヒョンチョルについて詳しく見ていこうと思う。
チョ・ヒョンチョルは俳優兼”監督”
チョ・ヒョンチョルは、短編映画『脊柱側湾(2010)』の監督兼出演俳優としてデビューして以来、二足の草鞋を履いて活躍している。
彼はこれ以外に、監督として5作品ほど世に出しているという。
これらは韓国のインディーズ映画であるため、日本公開はされていないものの、デビュー作の『脊柱側湾』は、第36回『ソウル独立映画祭』で最優秀書を獲得するほどの実力の持ち主なのだ。
2016年以降は、映画を主な活躍の場としており、俳優業の傍ら監督業も続けていたという。
監督経験は、自らの演技を客観的に見ることができ、視聴者側に立って演技ができることが、強みの1つでもある。
こうして“監督兼俳優”として培った表現力が、彼の演技をより一層引き立たせているのだ。
監督をも圧倒させる演技力
彼の高い演技力は、観客だけではなく共演者や監督からも、高い評価を得ている。
2015年に公開されたキム・ヘスとキム・ゴウン主演映画、『コインロッカーの女(邦題)』では、知的障害者ホンジュ役を演じたチョ・ヒョンチョル。
彼のあまりの上手さに、彼をキャスティングしたハン・ジュニ監督は、「彼の演技に関しては演出の必要がなかった」と語っている。
その活躍もあってか、本品は『韓国映画評論家協会賞』受賞や『ジッフォーニ映画祭』で最優秀作品賞、特別賞を同時受賞するなど、数々の賞を獲得。
主演のキム・ヘスやキム・ゴウン等が受賞した賞を含めると、様々な人々からあらゆる視点で高評価を受けたのかが分かる。
そして時を経た2021年、ハン・ジュニ監督は『D.P.』で、再びチョ・ヒョンチョルに重要な役回りを担当させた。
監督から熱烈なラブコールが止まらないことからも、どんな役でも自分のモノとして吸収し、完璧に演じ切ってしまう、“俳優 チョ・ヒョンチョル”の像が見えてくるだろう。
最近では、『Film Adventure(2019)』というファンタジーロマンス映画でヨンファ役を演じ、『富山(プチョン)国際ファンタスティック映画祭』で長編主演男優賞を受賞するなど、地味ながらも着々と栄冠を手にしている。
そして現在チョ・ヒョンチョルは、Netflixで配信中のドラマ、『調査官ク・ギョンイ(邦題)』に出演中。トレードマークだった眼鏡を外し、オ・ギョンス役として活躍している。『D.P.』をきっかけに彼を知った視聴者は、果たして彼を同一人物だとすぐにわかった人はどれだけいただろうか。
今後も彼が見せる、様々な顔を楽しみにすると共に、彼の活躍に期待したい。
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