- 近年の韓国ドラマでは、90年代を舞台にした作品が相次ぎ、一つの潮流を形成しているようだ。
- 軍事政権の終焉やIMF通貨危機、「世紀末」と「新千年」が交錯する90年代は、物語性に富んだ時代だった。
- この時代の復元は中高年の記憶と若年層の新鮮さを同時に刺激する装置として機能している。

1997年のIMF通貨危機を描いたドラマ『テプン商事』(画像出典:tvNドラマ)
世紀末、IMF、そして90年代。近年の韓国ドラマは、この時代を意図的に「復元」しようとしているようだ。単なる懐古ではなく、90年代という時間そのものを物語装置として再構築する動きが、ひとつのトレンドとして定着しつつある。
最近放送を終えたイ・ジュノ主演の『テプン商事(tvN)』、公開を控えるパク・シネ主演の『アンダーカバー・ミスホン(tvN)』、そして公開時期が定まらないものの高い関心を集めるキム・スヒョン主演作『ノックオフ』など、90年代を舞台にした作品が相次いでいる。
少し視野を広げると、2024年の『貞淑なお仕事』、2023年の『輝くウォーターメロン ~僕らをつなぐ恋うた~』や『最悪の悪』、2022年の『二十五、二十一』なども同じ文脈に位置づけられる。時代設定は作品ごとに異なるものの、90年代という「過去」を現在の感性で読み替える姿勢は共通している。
では、なぜ90年代なのか。背景には、現在40〜50代となった世代の存在があると考えられている。
90年代に青春を過ごした彼らは、いまや大衆文化の主要な消費者であると同時に、制作や企画に関わる立場にもいる世代。自らの記憶に強く刻まれた時代を再訪し、それを作品として世に送り出すことで、記憶そのものが文化資源、さらには経済資源へと転化している構図が見えてくる。
90年代の韓国社会は、物語性に富んだ時代でもあった。長期にわたる軍事政権が終焉を迎え、自由や人権といった価値観が社会の隅々に浸透し始めた時期である。一方で、1988年のソウル五輪を経て先進国入りへの期待が高まるなか、1997年にはIMF通貨危機という国家的破綻を経験する。希望と絶望が急激に交錯したこの時代は、ドラマにとって格好の土壌だったとも言えそうだ。
また90年代末は、「世紀末」という漠然とした不安と、「新しい千年」を迎えるという未来志向の期待が同時に存在していた時期でもあり、その二重性が物語に独特の緊張感を与えている。

「Newtro」感性を取り入れた音楽とパフォーマンスを披露したNewJeans。同グループのプロデュースを手掛けたミン・ヒンジン(47)は、90年代に青春を過ごしている。(写真提供:©TOPSTAR NEWS)
もっとも、90年代の復元は40〜50代の郷愁を満たすだけにとどまらない。韓国の「Newtro(New+Retro)」潮流は、映画では過去の時代設定や小道具、フィルムの質感を借用し、音楽では80〜90年代のサウンドやファッションを再解釈する形で表れている。そこでは、中高年層の懐かしさと、Z世代にとっての「新しさ」が同時に狙われているようだ。
この構造は、世代間の共有を生み出す効果も指摘されている。中高年にとっては記憶の呼び起こしとして、10〜20代にとっては「初めて触れるカルチャー」として機能し、同じ楽曲や映像を異なる文脈で楽しむ状況が生まれる。さらに、ストリーミングやYouTubeといったプラットフォームの普及により、80〜90年代の原曲や旧作映画へ即座にアクセスできる環境が整ったことで、新作ドラマが過去コンテンツの消費まで押し上げる循環も形成されている。
90年代を描く韓国ドラマは、単なる再現ではなく、記憶と現在を往復する試みのようにも映る。その背景を知ることで、作品に込められた温度や距離感が、より立体的に感じられるのかもしれない。
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