韓国では、演技力や歌唱力に申し分のない人を称賛する表現方法として、よく“信じて観られる〇〇”という言葉が使われる。俳優のキム・ソニョンも、間違いなくその一人だ。作品ごとに“人生キャラクター”を更新しているとも言われる彼女は、最近夫が監督を務めた映画『三姉妹』で主演を務め、数々の賞を受賞。そんな名作がいよいよ日本で6/17より公開される。これを記念して、韓国公開当時の彼女のインタビューを再編してお届けする。(記事・一部写真提供:ⓒ 女性東亜)
新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、韓国でも社会的距離が2.5段階という状況の中、映画『三姉妹』は公開され、静かな反響を呼び起こした。

韓国の主要映画祭で10冠に輝いた名作映画『三姉妹』がいよいよ日本に上陸!((C)2020 Studio Up. All rights reserved.)
本作を観た観客レビューには「演技ではなく、本当にある物語」「出演者のすさまじい演技力」などと、高評価が多い。
特に、その名前を聞いただけでも存在感があり、どんな役柄でも自分のものにする、それが、キム・ソニョンだ。
『三姉妹』の中で、彼女は小心者の塊、長女ヒスクを演じている。ヒスクはいつも「ごめんね」「大丈夫」を口にしているが、内面は痛みと傷が化膿している。
彼女は、限りなくすれ違い続ける娘と、時々帰って来てはお金だけを持って出ていく夫がいる。そして真心込めて作った花を、届ける前にキャンセルする客など‥無礼な人たちが現れても、抗議するどころか「大丈夫」と言って笑う。
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観客はヒスクにもどかしい思いを抱きながらも、彼女の中に自分を重ね、家族の姿を見つけて涙した。これは、キム・ソニョンの持つ演技力にほかならない。

『三姉妹』でキム・ソニョンが演じたヒスクは「笑うことで混乱した感情を俯瞰する人」と分析する。(写真提供:ⓒ 女性東亜、画像出典:littlebigpictures)
キム・ソニョンは1995年に舞台『舞台が終わった後に』でデビュー。優れた演技力でその名を知らせた。
2016年に出演した、tvN『恋のスケッチ ~応答せよ1988~(邦題)』で、コ・ギョンピョ演じるソヌの母役で注目を集め、KBS2『椿の花咲く頃(2019)』、tvN『愛の不時着(2020)』、KBS2『人生最高の贈り物(邦題/2021)』など、人気ドラマで話題となるキャラクターを演じている。
一方、映画にもコンスタントに出演し『虐待の証明(原題:ミス・ペク/2018)』『マルモイ ことばあつめ(原題:マルモイ/2019)』『ひかり探して(原題:私が死んだ日/2020)』などがある。
そんなキム・ソニョンにとって、『三姉妹』はキーポイントとなる作品となった。
なぜなら助演の多かった彼女が、本作では主演を引き受けているからだ。さらに『三姉妹』は、映画監督であり夫のイ・スンウォンが演出を務めている。
役を引き受けて最初に悩むのは”洋服と靴”
――自身が出演した映画『三姉妹』を観客として見て、いかがでしたか。
キム・ソニョン:すっごく泣きました。エンディングでイ・ソラさんの楽曲『愛じゃないと言わないで』が流れてきたら、何だか寂しくなってしまって。

「これまで出会った人たちのことを考えながら、役のイメージを固めるんです」(写真提供:ⓒ 女性東亜、画像出典:littlebigpictures)
――トラウマを抱えたヒスクの感情を表現するのは、大変だったかと思います。
キム・ソニョン:ヒスク役を引き受けて「これはどうしよう?」「どうやって演じよう?」と、悩みながら過ごした1年でした。そのプロセスを経て、ヒスクというキャラクターが私の中に入ってきたので、撮影自体は楽にできたんです。全ての人間に、もどかしさややるせなさを感じるポイントがあると思うんですよ、私は娘を見るとそう感じますし。ヒスクは、悲惨な時ほど笑いが出てしまう人物なんですよね。だから演じながら、もどかしいと感じた瞬間がたくさんありました。本音を言うと、泣く演技よりも(偽りの)笑いの演技の方が難しかったです。でも役者は、キャラクターに共感する義務があるので、理解しようと努力しながら演じていました。私たちも、時々笑いで混乱した状況を見つめることってあるじゃないですか。ヒスクは、そういう瞬間が極大化した人物なんだと思います。
――キム・ソニョンさんは、役を引き受けてからまず最初に洋服と靴に悩むと伺いました。
キム・ソニョン:どんな役を演じるにしても、直感的かつ主観的に考えます。周囲に目を配りながら歩き回ったり、私がこれまで出会って来た人たちのことを考えたりして「このキャラクターは、この人みたいだな」と決めて、組み合わせたりするんです。「この人の洋服やヘアスタイルにしたら、その人みたいでしょ?」という感じに。そうすると、演じる役がよりリアルになってきて、具体的に完成されるという場合が多いんです。

「ムン・ソリさんは、オープンマインドな人。とても尊敬できる方です」((C)2020 Studio Up. All rights reserved.)
――共に主演を務められた、ムン・ソリさんとの共演はいかがでしたか?
キム・ソニョン:ムン・ソリさんは、いつもオープンな方でした。良い相乗効果を出すために、いつも賢明にコミュニケーションされるんです。いつだったか、ムン・ソリさんのインタビューを拝見したんですが、*イ・チャンドン監督に「映画は一緒に作っていくものと学んだ」とおっしゃっていて。普通、役者は自分の演技だけを見る人が多いんですが、イ監督がおっしゃるように、いつもオープンなんです。演じながら、その人物にハマっていく瞬間には、またそれだけに集中されて。撮影中に尊敬する部分をたくさん知り、たくさん学ばせていただきました。
*ムン・ソリが主演した映画『オアシス(2002)』の監督
実際の私は素敵な母です!笑
――妻ではなく、俳優の目線で見たイ・スンウォン監督はどんな方ですか。
キム・ソニョン:長所のたくさんある人です。演出がすごく上手で、夫でなければ多分、四方八方に自慢して回ったと思います(笑)。演出においては、常にポジティブなんですよ。本人の書いた脚本を演出する場合は、台本通りに演じなければダメだと思うんです。でもイ・スンウォン監督は、その俳優に合わせて、演者がさらに良いシナジーを出せるようにするんですね。短時間で変える能力がすごいんです。
――『三姉妹』は家族にまつわる物語ですよね。撮影しながら、ご自身の家族のことを自然に思い出したのではないですか?

「母として、娘のやりたいことを反対すべきか、そっとしておくべきかと悩みもします」(写真提供:ⓒ 女性東亜、画像出典:littlebigpictures)
キム・ソニョン:私は撮影に入る前、自分の人生で経験したことを、演技にどう持っていこうか悩みます。母のある瞬間を類推してみたり、姉や父の人生ソースを活用するといった具合にです。この作品が人々の慰めになったらいいな、家族同士が互いに謝れる部分があったらいいな、そんな風に考えましたね。
――作品の中で、すれ違う娘をただ眺めているだけの母のように出てきます。実生活で娘を育てている母として、ヒスクに対してどう感じましたか。
キム・ソニョン:ヒスクは娘に何の反対もしなければ制止もしません。世界に存在する母親には、そういう瞬間があるんです。もちろん「反対すべきか、そっとしておくべきか」と悩みもしますよ。場合によっては、娘を引っ張って行かなければなりませんが、映画の中ではその瞬間を最大限に表現しようと思いました。実際の私は、素敵な母親ですよ(笑)! 毎日、娘に「お母さんは素敵? 素敵じゃない? 最高でしょ?」って聞くんです。私の幸せが子どもに伝わると信じて、娘のために、私がまず幸せな人になれるよう努力します。それが教育だと思うんです。
――母が俳優で父が演出家の娘さんは、芸術家的なDNAが豊かなような気がします。
キム・ソニョン:今年10歳になったのですが、子役俳優の夢をあきらめさせるのは、大変でした(苦笑)。子役俳優は、母親がマネージャーとなって、一緒にいなければならないらしいんです。私が演技じているシーンを見て泣いたり、私の演技に素早く没入する能力はあるみたいですが‥。

「娘の幸せのために、まず私が幸せな人にならないと、それが教育」((C)2020 Studio Up. All rights reserved.)
――“爆発的吸収力を持つ俳優”と、同業者たちからたくさん称賛されてますが、その原動力はどこから来ているのでしょう。
キム・ソニョン:人が好きで、誰と会っても真心込めて話すので、その時にエネルギーをたくさん使います。口だけじゃなくて、力もたくさん使うみたいですね。演技する時も、同じなんじゃないですか。普段から、力がある方だとよく言われますし(笑)。
――『椿の花咲く頃』や『愛の不時着』など、出演する作品が軒並みヒットしています。その人気は実感していますか?
キム・ソニョン:『恋のスケッチ ~応答せよ1988~』のおかげで、食べていけるようになりました(笑)。その前は、知られている役者ではなかったので『応答せよ』以降、人気をたくさん実感しました。最近は、歩き回ってもあまり気付かれません。『応答せよ』の時の関心は、本当にすごいものでした。
――最後に『三姉妹』を通して、観客の皆さんに伝えたいメッセージがあればお願いします。
キム・ソニョン:人が自由に歩き回れる時に公開されたら、さらに多くの方が観覧して期待値も高めてもらえたのかなと思いますが、今はそうではない時です。そんな環境の中でも、劇場の皆さんが徹底した防疫をされているので、劇場に来ていただけたら、もどかしい状況の中でも慰めになる作品だと思います。
(女性東亜 ドゥ・ギョンア記者 / 翻訳・構成:編集部)
本記事は韓国メディア Donga.com Co., Ltd.が運営する女性東亜の記事内容の一部あるいは全部 及び写真や編集物の提供により作成されております。
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