- 韓国ドラマ『サムシクおじさん』が、早くも「惨敗」という苦言に見舞われている。
- ネット話題性ランキングトップ5で、公開して以来一度も名を連ねていない。
- 激動の時代を代表する大きな事件を一つの作品に盛り込もうとした“欲張り”を指摘する声も。
「2024年最高の期待作」と称されていた韓国ドラマ『サムシクおじさん』が、早くも「惨敗」という苦言に見舞われている。
韓国を代表する俳優ソン・ガンホに加え、若手演技職人として存在感を発揮するピョン・ヨハンのキャスティングが確定した2022年から、ドラマファンをワクワクさせた本作。去る5月にベールを脱いだが、公開4週目を迎えた6月上旬、韓国ネットとマスコミは首をかしげはじめた。
ソン・ガンホ主演、約400億ウォン(約45億円)の制作費、韓国ドラマが得意とする近現代史モノ‥成功のポイントは揃っているかのように見える。
しかし、いざ蓋を開けてみると、成功とは言えない興行成績。一体何を以って「惨敗」というレッテルが付きまとうようになったのだろうか。その理由を考察してみたい。
なぜ「惨敗」レッテルが貼られたのか
周知のとおり『サムシクおじさん』は、テレビ局が放送しているドラマではない。グローバル大手OTTディズニープラスが配信するオリジナルシリーズである。
そのため、一般的に“成敗”を評価する“視聴率”という指標がない。
そのため、OTTで配信されるオリジナルシリーズは主に、
・韓国ネットの話題性
・配信OTTグローバルランキング
で成敗が評価される。
今や視聴率より韓国ネットの話題性が人気のバロメーターとして認知されつつある。先日幕を下ろした『ソンジェ背負って走れ(tvN)』は平均4%台と、決して高くない視聴率を記録するも、放送期間中にネットの話題性の約半分を占め、上半期大ヒットドラマに分類されている。
『サムシクおじさん』は、毎週集計される韓国ネット話題性ランキング(トップ5)で、公開して以来一度も名を連ねていない。
“怪作”として第2の『イカゲーム』と期待されていたものの、ファンとメディアから不評を受けている『The 8 Show~極限のマネーショー~』でさえ常にトップ5にチャートインしているのに‥だ。
つまり『サムシクおじさん』に対しては、好評も悪評もつかない、いわば“大衆の無関心”が伺われる。
また、グローバル成績もイマイチ。韓国国内ではディズニープラス配信作の中で1位を獲得するも、海外では巨大な韓流マーケットを持つ日本と東南アジアで苦戦を強いられている。
「まったく期待されていなかった」とも言える、ディズニープラス配信の別のオリジナルシリーズ『クラッシュ 交通犯罪捜査チーム』が好評を受けているのとは対照的である。
このように、韓国ネットの話題性とグローバルランキングでの“低い数字”が、本作に“惨敗”というレッテルをつけてしまったのだ。
視聴者の離脱の理由
ではなぜ、ここまで残念な結果を来してしまったのだろうか。
多くの韓国メディアは、第5話までのストーリーと演出が、根気のない視聴者を引き込ませる事に失敗した点を原因として挙げる。
激動の時代を描く近現代史モノであるため、劇の前半に時間をかけて叙事を完成させる事は不可欠。とはいえ、視聴者はドキュメンタリー番組を望んでいるわけではない。
朝鮮戦争直後の1950年代の韓国社会を舞台にする本作は、戦後の混乱と貧困をリアルに映し出しているが、緊張感のない展開に視聴者の離脱が加速する結果を招いてしまったのだ。
また、1950~60年代の韓国社会を代表する大きな事件を一つの作品に盛り込もうとした、制作陣の“欲張り”を指摘する声も聞こえる。
初代大統領の不正選挙(1960年3.15不正選挙)、政権に反発した学生たちの大規模なデモ(1960年4.19民主化運動)、クーデターで政権を奪取した事件(1961年5.16軍事クーデター)は背景知識のない視聴者にとって、一つのストーリーで理解するのは容易ではない。海外のドラマファンはなおさらである。
***
一方で『サムシクおじさん』を絶賛する声も聞こえる。
第92回アカデミー賞作品賞に輝いた巨匠マーティン・スコセッシ監督の2019年作『アイリッシュマン』の韓国版と評価されるほど、俳優陣の演技と臨場感溢れる演出は、好評を博している。
しかし、ドラマファンは優しくない。由緒ある授賞式の作品賞候補よりは、退屈を吹っ飛ばす刺激性に富んだエンターテイメントに慣れている。
この現状を踏まえていうと、残念ながら、『サムシクおじさん』は“惨敗”したのかもしれない。
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