- 韓国の若者の仕事観が大きく変化している。
- 名門大学を卒業して誰もが知る大企業に就職するという定番コースに、魅力を感じない人が増えているようだ。
- 若者の意識の変化を垣間見ることのできるエピソードが盛り込まれたドラマを紹介する。
今、韓国の若者の間で、仕事観が大きく変化している。
名門大学を卒業後、名の知れた会社に就職するという、これまで定番・目標とされてきたコースはもう時代遅れという反応。結果が出る保証のない“一生懸命”という概念は、薄れつつあるようだ。
この意識の変化は韓国ドラマのなかにも登場し、若者たちの現実を垣間見ることのできる作品がちらほら。
例えば『卒業』(tvN/2024)や、『The 8 Show ~極限のマネーショー~』(Netflix/2024)、『私は堂々とシンデレラを夢見る』(TVING/2024)がその好例。
主人公が夢に向かってまい進する様などを描いたキラキラとした美しい物語よりも、厳しい現実社会を生きる若者の声や姿を反映した作品が増え始めている。
塾のベテラン女性教師と新人教師のロマンスを描いた『卒業』では、ウィ・ハジュン演じるジュノが父親と衝突する場面が描かれた。
学習産業が集まる大峙洞(テチドン)の塾に通い成績が急上昇、“大峙洞の奇跡”とまで言われ名門大学を卒業、誰もが羨む大企業に就職したジュノだったが、3年未満で辞職して塾の講師になると言い出したから。
がむしゃらに頑張っても、自力で高級住宅街に家を持つことができない現実を目の当たりにしての決断。カリスマ講師になり収入アップを図ろうとしたわけだ。
「もうとっくの昔に世界は変わったんだよ。お父さんの頃とは違って、今は会社勤めをしてたら間違いなく出生コースから外れてしまう」という父親への一言が印象的。
今の時代、一生懸命勉強していい大学いい会社に入れば満足する人生を歩むことができるわけではないことを示唆する発言が、若者世代から熱い視線を浴びた。
ジュノのように韓国では、月給取りでは階級社会で生きていけないと考える若者が増加傾向。
事実、韓国の統計庁が2021年に実施した社会調査の結果によると、成人の6割が「努力をしても社会階級を変えるのは難しい」との意見。
なんと子ども世代でも過半数が容易ではないと回答しており、社会の厳しさを早くも肌で感じているようだ。
ジュノのように人生逆転を図ろうとするキャラクターは、最近日本でも話題をさらった『The 8 Show ~極限のマネーショー~』に登場していた。リュ・ジョンヨル扮するペ・ジンスだ。
投資に失敗し借金が膨れ上がった人物で、お金を得るため謎のマネーショーに参加、一攫千金を狙う。
ジュノと設定は異なるものの、自身の置かれた状況に悲観し、人生一発逆転を図ろうとする点においては共通している。
劇中、コンビニのアルバイトで日給7万8千ウォン(約7800円)、高層ビルの外装清掃作業員として1日に4時間働き32万ウォン(約32000円)を手にするが、たとえソウル中のビルを掃除したところで借金を返せないことに絶望。
危険な誘いだと察知していながら、「最低賃金の人生には戻りたくない」との思いで危ないゲームに身を投じた。
また、『私は堂々とシンデレラを夢見る』では、主人公のシン・ジェリム(ピョ・イェジン扮)が結婚によって一発逆転を狙う。
なんと父親が、裕福な家の息子と結婚して人生を変えるよう娘に遺言書を残すというセンセーショナルな展開。現実の厳しさを知った彼女は、富裕層が集まる社交クラブのマネージャーに就職する。
本作を手掛けた監督は、人生の方向を変えることのできる機会を複数回描いていると語った。
シン・ジェリムの行動は“玉の輿”でどちらかといえば批判的なイメージが強いものとされていたが、ドラマの中では人生における選択の1つとして描かれている。
少し前までは、し烈な受験戦争を描いた『SKYキャッスル』(JTBC/2018)のような世界観が、韓国の当たり前とされていた。またセンター試験の日は、子どもと親が一丸となって戦いに挑む姿を撮そうと、わざわざ取材に出向く日本のテレビ局も。それほど熱いものだった。
それが数年の間に激変、どうやら彼ら彼女らの努力は報われないものとなったよう。高学歴であっても就職難を経験している人は多く、晴れて会社員になれた場合でも、労働環境とその対価に納得がいかないケースも。
そんななか、コロナ禍で起業し自分のペースで働きながら瞬く間に大金を手に入れた友人を見ると、毎日通勤する意欲がなくなってもしょうがないだろう。
そもそも離職に対し肯定的で、一生その企業に骨を埋めるという感覚が薄れてきており、プライベートを重要視する傾向もあると言われている。
社会の今を反映させ視聴者の共感を呼んできた韓国ドラマ。若者の意識の変化は、韓ドラ界にも新たな風を吹かせている。
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