韓国の音楽評論家のキム・ホンシク氏が「BTSのグラミー受賞失敗は、人種差別によるものではない」と主張した。キム氏が見る本当の理由、そしてK-POPの成功とその影響力に対する考察を紹介する。
韓国の有名評論家が「なぜBTS(防弾少年団)は、グラミー賞受賞に失敗したのか」という話題について考察した。
高麗大学や建国大学などで博士号(政治・政策学と文化情報コンテンツ学)を取得した、韓国の音楽評論家キム・ホンシク氏(49)。
彼は、韓国メディアの中央日報(www.joongang.co.kr)とのインタビュー(8月2日掲載)で、「BTSのグラミー受賞失敗は、人種差別によるものではない」と断定している。
では、その”理由”は何なのだろうか。
グラミー受賞失敗はジェンダー問題?
キム氏は、その理由が”ジェンダー問題”にあると見ている。
BTSがアジア人だから(人種問題)ではなく、「BTSを応援するアメリカのファンが、10~20代の女性が中心だからだ」という論調である。
キム氏の説明を聞いてみよう。
「購買力や政治的権力という面で見ると、彼女たち(10~20代の女性)の影響力は弱い。そんな彼女たちが作り上げたアメリカ国内の”K-POPブーム”を、大衆音楽界の権威者たちは認めようとしない。権威者たちの目に映るK-POPは、本当の意味での音楽ではないのだ」
そしてキム氏は、欧米における”K-POPブーム”をけん引している若い女性ですら、K-POP卑下の背景に”人種差別”があると信じ込んでいると語る。
「この”人種差別”というフレームは適切ではない。グラミーでは、黒人やラテン系のアーティストもたくさん受賞している」
K-POP卑下‥もう1つの理由
キム氏は、アメリカの大衆音楽権威者たちによるK-POP卑下に、もう1つの理由があると説明している。
「K-POPは、SNSやYoutubeによって拡散されてきた。マスコミの評価によって成長した20世紀のスターミュージシャンとは違う経路である。レガシーメディアに慣れた人たちにとって、K-POPの成功は認めたくないはず」
つまり、テレビやラジオ、新聞といったマスメディアで紹介される情報に慣れているアメリカ音楽界の既得権者の目には、K-POPスターは単なる”アジアのインフルエンサー”にしか映っていないとのことなのだ。
この偏狭な評価について、キム氏はこう捕捉する。
「聞いたこともなければ、アメリカのマスコミにも取り上げられたことのない韓国の歌手がいきなりビルボード1位を獲得する・・既得権者たちも”一体何が起きているんだ!”と、こんがらがっているはず」
レガシーメディアの衰退と、SNSなどのニューメディアの浮上といったパラダイムシフトに適応していない人々が、いまだに投票権を持ってるグラミー賞で、”BTSの受賞失敗”は”当たり前な事”なのかもしれない。
ニューメディアの成長とK-POPの成功
この、世界的なニューメディアの浮上が、K-POPに恩恵をもたらしているのか。
これについてキム氏は、”K-POPブーム”の背景には、ニューメディアでユーザーが求めているものをキャッチし、タイムリーに提供する”能力”がK-POPにあると主張している。
「音楽というのは、もはや聴覚を満足させるだけにどどまらない。視覚的な要素も消費されるデジタルメディア時代において、K-POPはとてつもない競争力を持っている」
また、K-POPの基本マインドが”消費者(ファン)中心”であることも、成功要因として挙げた。
「欧米の音楽産業は、ファンよりアーティスト中心だ。アーティストがアルバムを発表して”これが私の歌だよー。好きだったら聴いて、嫌だったらやめとけ”というスタンス。しかしK-POPは、ファンの反応とトレンドを綿密にチェックし、音楽ファンのフィードバックにも敏感で、指摘されたものはすぐ直す」
キム氏はこの、ファン中心の産業形態が、ファンを動かすと捕捉する。
「ファンが主導権を持っているから、オンラインコミュニティーに参加し、自発的且つ積極的に好きなアイドルを広報する」
しかし、ファン中心の産業が、否定的な面も持ち合わせていると、キム氏は指摘。
「ロシアによるウクライナ攻撃に対して、非難声明を出したK-POPアイドルはいない。なぜなら、ロシアをはじめ、攻撃に賛同した国々のファンへの配慮も必要だから。インドネシアもロシアの攻撃に賛同の意を示している。ご存じのとおり、インドネシアのK-POP需要は年々高まっている」
BTS
BTS(防弾少年団)は2013年6月13日にデビューした韓国の7人組男性アーティストグループで、パン・シヒョクのプロデュースにより誕生した。
HYBE(旧Big Hitエンターテインメント)所属。
デビューアルバムは『2 COOL 4 SKOOL』、デビュー曲は『No More Dream』。グループ名の”防弾少年団”には、10代、20代に向けられる抑圧や偏見を止め、自身たちの音楽を守りぬくという意味が込められている。
ハングル表記は”방탄소년단(バンタンソニョンダン)”から”バンタン”と呼ばれることが多い。
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