日本の映画監督である是枝裕和監督が初めて韓国映画を撮り、カンヌ国際映画祭で話題を呼んだ『ベイビー・ブローカー』。日本でも6月24日(金)より公開が決定し、早くも期待を集める中、”俳優イ・ジウン”として出演したIU(アイユー)が、本作への思いを語った。

IU(アイユー/イ・ジウン)が出演した映画『ベイビー・ブローカー』について、インタビューに応じた。

本作の公開に先駆けて(韓国では6月8日より公開)、6月7日にラウンドインタビューが行われ、ここにIUが出席し様々な思いを明かしている。

誰しもが、自身がどんな事をして、どこに立っているのかを明確に知ることは難しい。それが初めての歩み、初めての始まりならなおさらだ。

自分と自分のすることに対して、終わりのない質問を持つ明晰な”俳優”イ・ジウンの話を聞いてみる。

撮影中は是枝監督に”質問攻め”の日々

IUは愉快ながらも奥ゆかしい態度で、自身の演じた未婚の母、ソヨンについて言及した。

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IU「漠然と母親役をやってみたかった」(写真提供:ⓒ TOPSTAR NEWS、画像出典:EDAMエンターテインメント)

“歌手・IU”というイメージが強い彼女が選んだキャラクターは、制作段階から多くの関心を集めた。と同時に、彼女が以前から”母”という役柄に好奇心を持っていたという事実が明かされ、意外性を持たせる。

「母役を演じてみたかったという、特別な理由はないんです。”次の出演作を決めなければいけないけど、私は何がやりたいんだろう?”と自問自答したら、漠然と母親が浮かびました。”どんな母親か”という概念もなく、本当にただ漠然とやりたいと思いました。私は、ちょっとケガしただけでも痛いと思うのに、妊娠と出産がどれほどつらいのか、想像もつきません。でも母と姉は、産んでからの方がもっと大変だって言ったんですよ。それで、大きな困難を乗り越えたことがある人を、演技してみたかったのかもしれません。ソヨンという女性を演じましたが、他の母親もやってみたいと思いました。世界には、たくさんの母親がいますしね」

ソヨンは、物語の中で最も立体的な役だと言っても差し支えないほど、彼女の話が盛り込まれている。

彼女は20代という若さながら、家族から世話してもらうことができなかった。そして子を産んで未婚の母となり、世界から逃げなければならない”何か”の理由を持っている人物だ。

そしてソヨンは、”歌手・IU”と”俳優・イ・ジウン”が経験したことのない、完全に未知の領域にいる人間でもある。

「ソヨンは未婚の母であり、ウサンの母で、物語の中で重い設定を背負っている一人でした。でも全てのシーンで”母”として見せるのは嫌で、このシーンでは”母親”、このシーンでは”無自覚な20代”、このシーンではドンス(カン・ドンウォン扮)に向けた”妙な感情を持つ女性”のように見せたかったです。そして未婚の母に向けられる社会的視線に、怒らなければなりませんでした。与えられた課題が、本当にたくさんあったので、是枝監督に、ずーっと質問し続けていました。”ソヨンはどうしてこういう選択をしたんですか?”、”ソヨンも後悔する瞬間がありましたか?”(監督に)面倒をかけてしまうけど、仕方ないという気持ちで図々しく質問しました」

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IU「撮影中は是枝監督に図々しく質問攻めしました」(写真提供:ⓒ TOPSTAR NEWS、画像出典:EDAMエンターテインメント)

IUは、自身の数えきれない質問に対する、是枝監督からの答えと共に役作りをし、ソン・ガンホやカン・ドンウォンらベテラン俳優の演技を間近で学び、ソヨンを作り上げていく。そのプロセスで解消されなかった難しい部分は、演技をする中で見えてきた、特別な感情で乗り切った。

「ウソンをどういう目で見なければならないのか、分からなかったんです。監督も、確実に示さないでほしいとおっしゃいました。私が出した結論は、心の中ではウソンを心から愛しているけど、自身はそれに気付いてないフリをしたいという役だったんだと思います。愛は持ってるけど、表現はしない。それが本当に難しかったです。物語の序盤、私が便器の水を流すシーンがあります。それはソヨンが母乳を絞り出して、流れ落ちるシーンなのですが、その後すぐにタイトな顔が映ります。その時どんな演技をすればいいのか、監督が説明してくれました。物語の序盤だったんですけど、本当に空虚だった記憶があります。冷たい日差しを見た時とてもつらくて、その状況とかみ合っていて、とても空虚な気分でした」

ソヨンが一番聞きたかった一言

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IU「ソヨンは一番言いたくない言葉が一番聞きたかった人なんです」(写真提供:ⓒ TOPSTAR NEWS、画像出典:EDAMエンターテインメント)

劇中、IUはソン・ガンホ、カン・ドンウォンと共に旅立つことになる。

3人だけのロードムービーが繰り広げられ、同じ時間を過ごしていくうちに互いに心を許し合い、少し特別な存在になっていった。

それぞれの関係が熟したと分かるシーンは、闇の中でソヨンが「生まれて来てくれてありがとう」という言葉を伝えた瞬間に集約されている。

「その部屋の中の全てに、母親の不在を感じながら、そこから来る絆を感じる人たちでもありました。この3人は結局、同じ痛みのある人として、互いのためにそういう話ができるんです。互いに連帯感や絆がなかったら、きっと力を受け止められなかったと思います。だからそのシーンは母親ではなく、同じ痛みのある人間としてセリフを言いました。ソヨンも、その言葉を初めて聞いたんだと思います。最初は、その言葉を言いたくなかったんですけど、結局その言葉が一番聞きたかった人だったんでしょうね。誰かから、”生まれて来て良かった人だ”という確信を持ちたかったんだと思います」

IUはソヨンを演じるために、未婚の母を見る社会的視線について、深く考えた。そして、保育園で育つ子どもたちのことも、同様に考えたという。

「私が10代の時から、縁のある養護施設があります。ある番組の撮影をしている時に知った所なんですが、先生や子どもたちと顔見知りになって、今では私と家族が行ったり来たりしています。ここで生活している乳児の友達、中でも一番仲の良い友達がこの映画を観た時、どんな気持ちになるかを考えるようになりました。”私の表現が、この友人を傷つけたりしないだろうか?”と。悩んだ末、試写会に招待しました。その友人の傷になることがメインテーマではないし、温かな気持ちで劇場を出られるだろうという、小さな確信がありました。私はこの作品に出合うまで、未婚の母に対する”先入観”というものを、考えたことがありませんでした。そして私の表現したことが、自分を憐れんでいるように見えないでほしいと思いました。私がこの人物に対して持っている憐れみのせいで、ソヨンの持つ姿がぼやけてはいけないと」

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IU「私の持つ感情で、ソヨンをぼやけさせてはいけないと思いました」(写真提供:ⓒ TOPSTAR NEWS、画像出典:EDAMエンターテインメント)

演技は新たな活力をくれたもの

『ベイビー・ブローカー』で、商業映画に華麗なるデビューを果たしたIU。映画初出演作が『カンヌ国際映画祭』のコンペティション部門にノミネートされた彼女に、”歌手・IU”と”俳優・イ・ジウン”の間に立つ者としての考えが気になった。

「そのような質問をいただいた時、明白な答えができないんです。それは、どちらも大変な時はつらいし、楽しい時は目が回るくらい面白いからです。歌手として好きな事は、レコーディング室で過ごす時間です。テイクを重ねて、先の録音と比較できて、その場でフィードバックできることが、最もウキウキします。より良い何かを作る機会を与えられていると感じるんですよね。映画の撮影現場での作業は、レコーディング室と似ているような気がします。責任感を持つこと、所属感がある点が好きです。歌手活動は、プロデュースをして歌詞を書いていると、少し寂しさを感じます。私の持っているものより、もっとたくさんのことをやっているような気がするからです。反面、映画は与えられることが明確なので、集中できる部分があって好きです」

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IU「レコーディングと映画の撮影は、似ている感覚がありました」(写真提供:ⓒ TOPSTAR NEWS、画像出典:EDAMエンターテインメント)

映画『ベイビー・ブローカー』の公開を目前にしながら、『ドリーム』の公開も控えているIUは、KBSドラマ『ドリームハイ(2011)』で俳優活動を本格スタートさせ、tvN『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~(2018)』『ホテルデルーナ(2019)』などで大衆から演技力が認められ、主演俳優としての地位を確固たるものにしている。

いつの間にか、彼女にとって演技は新たな力を与える媒体となっていった。

「演じるのは楽しいです。難しいこともありますが、考える動力を与えてもらえるのが好きなんです。私が私としてだけ生きていたら、絶対に触れることのなかった部分があるじゃないですか。私がソヨンを演じるまで、未婚の母や養護施設の子どもたちの人生について、一日中考えることがなかったように。私自身は、自分なりに生きていくことはできますよね。でも、その人物のことを考えて表現しなければいけないから、たくさんのことを推し量って、今の私とは違うように生きているのではないかと、考えてみます。今までの私だったら考えもしなかったことについて、頭を使うのは楽しいです」

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IU「お芝居は、考える動力が与えられて楽しいです」(写真提供:ⓒ TOPSTAR NEWS、画像出典:EDAMエンターテインメント)

俳優・イ・ジウンは、歌手IUとは全く違った魅力を放つ。”明るくて明瞭な”イメージの対角線に存在しているような、新たな一面が、スクリーンやシーンにすっかり溶け込んでいるように見える。

そして彼女は、こつこつと新しいカラーを見せたいという欲のある俳優でもあった。

「私が歌っているところを見ている方たちは、デビュー当初に出していた、明るくて朗らかなイメージを今も持っているようです。だから悲しい歌を歌った時に寂しさを見せたら、”何かあったのか”とたくさん質問されました。そう見せる表現が悲しみなのか、寂しさなのかを分かっていない年齢で歌の世界に飛び込んだので、私のオフの部分は本当は悲しい人なのではないかと思われたみたいですね。そしてその逆に考えている方もいる、という感じです。パク・ソジュンさんと共演した映画『ドリーム』は、もう少し明るいキャラクターを演じました。いろいろな役柄を演じることが、心の解消になったりします」

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IU「『ベイビー・ブローカー』でいただいたもの全てを絶対に忘れません」(写真提供:ⓒ TOPSTAR NEWS、画像出典:EDAMエンターテインメント)

慎重に、しかし確信ある一歩を踏み出したIUは、インタビューの間『ベイビー・ブローカー』を、自身が得た”初心者の幸運”と表現した。

「映画のデビュー作から、全ての現場が、こんなに完璧なことはめったにないというお話しを伺いました。ビギナーズラックだったみたいです。初の長編映画出演で『ベイビー・ブローカー』に出合えたので、ここでいただいた配慮や幸運を、忘れてはいけないと思っています。これが私の運の全てだったとしても、本当に大きな経験をさせていただきました。そんな素敵な運をもらえた人間なので、もっと頑張らないとという気もしています」





IU

歌手兼女優のIU(アイユー / ハングル 아이유)。

歌手活動をしながらドラマや映画などに出演するなど女優としても活動を行い、またバラエティ番組に出演したり様々な広告モデルを務めるなど、マルチエンターテイナーとして活躍中。

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