現在、Netflix(ネットフリックス)『私たちのブルース』に出演中の俳優イ・ビョンホン。まだ彼のメインストーリーが登場していないだけに、相手役であるシン・ミナとの関係が気になるところ。そんな彼が、初めて北朝鮮軍の役に挑戦した映画『白頭山大噴火(2019)』出演当時のインタビューを振り返り、彼の演技に対する思いを覗いてみた。
イ・ビョンホンは、能弁家ではなかったが、質問ごとに本心が込められた答えを探した。
デビュー以来、数多くのインタビューを受けてきたと思われるが、いまだ一言、一言に慎重だ。
映画『白頭山大噴火(2019)』で披露してくれた姿のように、“さすが、イ・ビョンホン”という賛辞が惜しくない。
2000年、イ・スヒョク陸軍兵長役で共同警備区域“JSA”を守っていた若手俳優が、20年を経て、超大作災害映画『白頭山大噴火』で、北朝鮮武力部所属のリ・ジュンピョン役でスクリーンに登場した。
デビューから30年を迎え51歳(日本年齢)となったイ・ビョンホンは、これまで数十本の映画とドラマに出演して来たが、北朝鮮軍の役を引き受けたのは今回が初めて。
彼が演じたリ・ジュンピョンは、「表に見えるものを信じるな」というセリフが垣間見せたように、平坦に生きてきた人物ではない。全羅道(チョルラド)の方言からロシア語まで自由に駆使して相手を惑わせ、油断した隙を狙って素早く制圧する。また、自分の利益のために裏切りを繰り返す冷血漢だったかと思えば、娘のためには全てを差し出す父親でもある。
イ・ビョンホンは、これだけ振り幅の大きい立体的なキャラクターを、彼特有の真面目さとユーモラスさで味わい深く表現し、観客の度肝を抜く。
セリフにアドリブを多様に組み込んだ意図
2018年の出演映画『それだけが、僕の世界』とドラマ『ミスター・サンシャイン(tvN/Netflix)』に続き、今回の作品でもう一度“ゴッド・ビョンホン”という賛辞を聞いた彼に、『白頭山大噴火』の公開日である12月19日に会った。
彼はスクリーン上での俊敏な姿とは異なり、少しゆっくりとした口調と息遣いで話を解いた。
――この映画に出演した理由をお聞かせください。
イ・ビョンホン:初めてシナリオをいただいた時は、あまりにも良くできたシナリオだから‥むしろ魅力があまり感じられなかったというか。そうこうしていると、ハ・ジョンウが先にキャスティングされて、僕に直接電話をかけてきたんです。「ヒョンビンさんに一緒にやってほしいです」と。それで肯定的な方向に変わりました。その後、監督と打ち合わせをして「やってみよう」という思いになりました。
――「自分で見てもかっこよく映っている!」と思う“一押し”シーンはありますか?
イ・ビョンホン:(映画序盤からあめを食べる)一番最後、娘にあめをあげながら「(これ)甘いね」と言うシーンです。
――映画の中で、お尻を露出するシーンには驚きました。ご自身はどう思われましたか?
イ・ビョンホン:そのシーンのせいで、未成年者観覧不可等級判定(R指定)を受けるんじゃないかと心配しましたよ。はははっ!
――映画『アジョシ(2010)』のウォンビンのように、大きなハサミで自ら丸刈りになるシーンがありますよね。たくさん練習が必要なシーンだったように思いますが、いかがでしょうか?
イ・ビョンホン:映画を見終わった人が「リ・ジュンピョンって、もともとはヘアデザイナーだったんじゃない?」って言うんですよ(笑)。大きなハサミで髪を切って、ヒゲもきれいに整えたので。実際のプロのように手際良く見せないといけないと思って、僕の担当ヘアデザイナーにカットの方法を習いました。それでも、大きなハサミで自分の髪を切ろうとするのは、すごく危なかったですね。さり気なく演じはしましたが、実は若干怖かったです。(鏡を見て切ると)どこをどういう風に切っているのか分からないんですよ。それと、ヒゲはハサミを近付けてカットしないといけないんですが、ハサミが大きいのでさらに危険でした。
――バラエティー番組やYouTube(ユーチューブ)で、たくさんパロディー化されそうですね。
イ・ビョンホン:そうはならないと思いますよ。僕はウォンビンさんのように、腹筋を見せていないので(笑)。
――キャラクターを作っていく上で、イ・ビョンホンさんのアドリブはどの程度ありましたか?
イ・ビョンホン:多かったと思います。後でカットされた部分もありますし。例えば、用を足すために装甲車から降りて、ドラマ『チェオクの剣(MBC/2003)』の話をするシーンがあるんですが、その後の話はジョンウと2人で作っていきました。シナリオには、アメリカドラマを略した“アド”まで書かれていて、「バカ騒ぎ」を略して「バ騒」や、「南朝鮮ではいろいろ略してバカ騒ぎだ」を略して「いろ略」いうセリフは、アドリブを入れた部分です。一度略語を言ったことで、映画の中で面白く使われるようになったんです。若い世代がよく使う略語に対して、既成世代が感じる拒否感や面白さを、北朝鮮人も同じように感じるだろうと考えました。
父親になって変化した感情表現
――映画の終盤に熱く涙を流すシーンが印象的で、1人の子どもの父親として、感情移入されたように見えましたがいかがでしょうか?
イ・ビョンホン:実際に父親になってからは、不正を表現する部分で、感情移入がはるかにしやすくになったんじゃないかと思います。いくら現実的な話でも、実際に経験していないシーンは想像に頼るしかないのですが、運良く経験した感情表現ができるシーンなら、しっかりと入り込めるし、自信を持って演じることができますね。
――演技面で、ハ・ジョンウさんはどんな俳優ですか?
イ・ビョンホン:ジョンウは瞬発力の良い俳優で、毎瞬間、機知に富んでいます。普段はウィットに溢れていても、カメラの前に立つとその能力を発揮できない俳優も多い中、彼は普段のユーモラスな様子や、ウィットさを映画にも120%活用することのできる俳優だと思います。
――ハ・ジョンウさんは、俳優イ・ビョンホンを“演技マシーン”と評し、試写会後は、記者の間で“さすがイ・ビョンホン”という賛辞が出ていました。気分はいかがでしょう?
イ・ビョンホン:賞賛はいつ聞いても気分が良いですよ。同じ仕事をする方から言われると特に。
――世間は、イ・ビョンホンさんにどんな姿を期待していると思われますか?
イ・ビョンホン:ファンが期待する姿は、個人的に考えていたものとは異なるようなんですよね。僕の中では漠然と、コミカルな姿、悲しむ姿、あるいはアクションが上手でかっこいい姿が好きだと思っていたんです。でも実際は、“何か欠乏感があって、憐れみが感じられる姿を見せた時、イ・ビョンホンという俳優が生かされる”という話をたくさん聞きました。
――イ・ビョンホンさんのような演技の達人でも、演技に対して悩まれますか?
イ・ビョンホン:演技する瞬間に感じる悩みはありますね。「僕は本気で演技をしているだろうか? “するフリ”をしてるんじゃないだろうか?」と思ったり‥。あまり一喜一憂するタイプではないですが、演技を終えて、とても気分良く家に帰る日があれば、そうじゃない日もあります。些細なセリフでも「本気で演じた」と思えた日は、1日中気分が良いですね。逆に、感情が出なくて演じる“フリ”をしたと感じる日は、意図せず憂鬱になっていると思います。
――撮影現場で葛藤が生じた時、ご自身なりの対処方法はあるのでしょうか。
イ・ビョンホン:俳優は感情が繊細で、撮影時は感情が全開で神経質になっている状態なんです。なので、外部的要素によって傷付くと、演技することが非常に難しくなります。もし、一緒に働く仲間と大声で争うことになれば、そこから先の残った撮影期間は、ずっとその状態で働かなければならず、大変な状況になるということですね。だから僕はどんな状況でも柔軟に、見て見ぬ振りをする方です。葛藤が生じても、今後たくさんの人が大きな困難を経験するようなら、(その問題を)感情的に対処しないように努力します。
SNSでは出演作の新たな面白みを発見してほしい
――イ・ビョンホンさんは最近、SNSアカウントを作られましたよね。そういうことをされないように思ったので意外でした。
イ・ビョンホン:実は、数年前から所属事務所に勧められていたのですが、あまり気が進なくて。僕は、新たなメディアに早く適応する方ではないので‥。ですが、せっかく始めたから、楽しくやろうという気持ちです。映画が終わってビハインドカットを上げれば、その映画を楽しんでくれた人たちには「撮影していない時は、こうしてたんだ」と、新しい面白みを発見することができるでしょう? 僕のアメリカでの活動を担当するマネージャーは「ハリウッド映画(『G.I.ジョー(2009)』や『REDリターンズ(2013)』)を撮っていた時、共演者たちとSNSで繋がっていたら、今頃フォロワー数がどれだけ増えていたことか」と残念がっています(笑)。
――最近楽しんでいらっしゃる趣味が、“*モッパンの視聴”だと聞きました。イ・ビョンホンさんの個人YouTubeチャンネルを開設するのはいかがですか?
*モッパン:飲食をしながら行う放送のこと
イ・ビョンホン:今回の映画を撮りながら、待機時間に“モッパン”を楽しく見てました。映画『王になった男(2012)』の撮影時は、モバイルアプリのAniPang(パズルゲーム)にハマってたし‥。撮影期間だけハマるんですよ。“モッパン”は、他の方が見ていたので、僕も見始めたのですが、早く食べたり、たくさん食べたり、辛いものを食べるのが物珍しくて、ずっと見てましたね。「どうして僕はこれを見てるんだろう?」と思いないがら(笑)。僕は新しいメディアに慣れる方ではないので、YouTubeのようなものはできないと思います。
(女性東亜 ドゥ・ギョンア記者 / 翻訳・構成:西谷瀬里)
本記事は韓国メディア Donga.com Co., Ltd.が運営する女性東亜の記事内容の一部あるいは全部 及び写真や編集物の提供により作成されております。
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