俳優のチュウォンが主演を務めた、Netflixオリジナル映画『カーター』が、公開から幸先の良いスタートを切った。上映時間が2時間を超える本作は、息もつかせぬほどのド迫力なアクションシーン満載の大作に仕上がっているのだが、逆にこのアクションが“残念”と言う意見が寄せられた、一体なぜだろうか?
Netflixオリジナル映画『カーター』が、8月5日に公開された。
主演を務めた俳優のチュウォンは、別人かと見間違えるほどに肉体を鍛え上げ、大迫力のアクションシーンに挑んでいる。
本作は、日本では藤原竜也が主演を務めた『22年目の告白 ~私が犯人です~(2017)』の原作を手掛けた、チョン・ビョンギル監督の最新作だ。
公開から出足は好調で、公開から3日の8月8日には、Netflixワールド映画部門で2位の座に就いており、日本を含む19の国では1位を獲得した。
*この記事にはネタバレが含まれています、ご注意ください。
開始から10分間は、「うわあ」という感嘆詞ばかりが口から飛び出した。
まるで映画『ジョン・ウィック:パラベラム(2015)』のような、ノンストップ・アクションが視線を捉え続ける。
2017年、映画『悪女/AKUJO』で『NYアジア映画祭』の“アクション・シネマ賞”を受賞したほど、アクションの演出がグローバルに認知されているチョン監督の作品なんだということを、最初の10分間で実感する。
実際『ジョン・ウィック』シリーズを撮ったチャド・スタエルスキ監督は、自身が演出したバイクアクションシーンについて「チョン・ビョンギル監督の、『悪女/AKUJO』に対する献呈だ」と述べたほど。
だから、このアクションがどれほど我々の視線を圧倒するのか、映画ファンならある程度想像がつくのではないだろうか。
謎のウイルスが伝染し、北朝鮮はほぼ壊滅。そんな中、記憶の全てが消された状態で目覚めたカーター(チュウォン扮)を捉えようと、アメリカCIAが登場する。その時、彼はどこからか見知らぬ女性の声を聞く。
彼の耳に装置された受信機は彼だけに聞こえるもので、その声の指示を受けながら、訳も分からぬまま自身を脅かす人々と戦い、逃げるカーター。
その声はカーターに「娘がウイルスに感染した」と言い、救うためには免疫反応を見せた唯一の希望である少女、チョン・ハナ(チョン・ボミン扮)を救い出し、ワクチンが作れる北朝鮮の研究所に連れて行かなければならないと話す。
そんな『カーター』は、チョン・ハナを独占して北朝鮮の崩壊を見捨てようとする者、彼を通して北朝鮮の崩壊を防ごうとする者、そしてこれを機にアメリカと韓国、北朝鮮の勢力までを全て手にして、新たな権力を握ろうとする北朝鮮内のクーデター勢が、刻一刻を争う状況の中で死闘を繰り広げる物語だ。
韓国と北朝鮮、そしてアメリカがそれぞれの利益を巡り展開する『007』シリーズのようなアクションが加味されている。
本作は一言で言えば、チョン・ビョンギル監督の心算が如実に感じられる作品だ。アクションの演出に本気であるだけに、130分を超えるランニングタイムの間、カメラは止まる事がない。
カーターを演じたチュウォンは、バルクアップされた肉体を披露し、刀や銃を振り回しながら数百人を倒すアクションを見せてくれる。
その上、『007』シリーズでしか見たことのないようなスカイダイビングの高空アクションやバイクアクション、『マッドマックス(1979)』を見ているかのような疾走する自動車の上での死闘、さらに汽車の上からヘリコプターに乗って繰り出すアクションまで続く。
冒頭アクションのほぼ10分間、チュウォンが廃墟となった銭湯で、数百人の組織暴力団を刃物や鎌で所かまわず突き刺しているシーンは、ワンテイクで撮影されたといい、まるでその場に入り込んでいるような興奮を引き出す。
アドレナリンが爆発するしかない、その圧倒的なアクションを見れば、チュウォンがどれだけこの作品のために渾身の力を尽くしたかが感じられる。
しかし、過ぎたるは及ばざるが如し――だ。
上映中のほとんど、何分も休みなくアクションで走り、その強度もまた人間としては到底想像することが厳しいほど強力なため、前半部分が過ぎたあたりで見続けるのがつらくなってしまった。
清々しいカタルシスも繰り返され、まるでその状況を何度も経験しているような実感が、観ている人々を疲れさせるのだ。
そんな本作の内容について、韓国芸能コラムニストのチョン・ドクヒョン氏は「どんなに美声と言われるアーティストでも、果てしなく高音を出し続け、聞き手の鼓膜を絶えず刺激したら、序盤こそ心地良いが後半にいくほど“うるさい”と思うようになる」と表現する。
『カーター』は、チョン・ビョンギル監督が「僕はアクションシーンの演出はこんなにも上手だ」と、誇示しているかのようだ。
しかし、アクションの演出をそこかしこに入れることに、効果はあるのだろうか。
前出のチョン氏は「何事も適切な緩急と、バランスが必要だ。ある一定のシーンで十分に発揮されてこそ、アクションの爆発力が大きくなる」と指摘する。
せっかくの素晴らしいアクション演出ですら、過剰な詰め込みをした結果、作品や演者であるチュウォンの足を引っ張るアイロニーとなってしまうなんて、これほど残念なことはない。
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