1970年代の韓国・釜山を舞台に、平凡な市民からやり手の麻薬王へと華麗なる転身を遂げた1人の男、イ・ドゥサム。小気味よいテンポを持って成り上がる彼の、どこか憎めない悪の一代記を描いた映画『麻薬王』。実話をベースに制作されたとあって、当時の時代背景もしっかりと描写された作品だ。

先ごろ本サイトでも報じた、是枝監督が自身初の韓国映画を演出するというニュース。
キャスティングには、ソン・ガンホ、ペ・ドゥナ、カン・ドンウォンと、韓国を代表する演技派であり日本でも高い人気を誇る俳優陣が名を連ねている。

世界の映画ファンから期待が寄せられてる大作の誕生を記念して、中でも日本の映画ファンの間で馴染み深いソン・ガンホとペ・ドゥナが呼吸を合わせた作品『麻薬王』を紹介したいと思う。

映画『麻薬王』は2018年12月に韓国公開され、観客動員数180万人を記録したフィクション作品だ。1970年代の韓国・釜山を舞台に、麻薬=ヒロポンで地位と名誉を築き、さらには愛国者としても成り上がった1人の男の物語を実話ベースで描いている。

映画『麻薬王』(画像出典:ショーボックス)

物語の舞台は1970年代の韓国。麻薬も輸出すれば”愛国者”になれた時代だ。
下請密輸業者だった金細工職人のイ・ドゥサム(ソン・ガンホ)は、ひょんなことから麻薬の密輸に加担することになり、本能的に麻薬ビジネスに目覚めていく。

優れた観察力、素早い危機対処能力、神から授かった手先の器用さ、人脈を嗅ぎつける臭覚と、彼が備えたスペックをフル稼働させ、韓国から日本への麻薬=ヒロポンの密輸という壮大な事業に手を染める。

主演を務めた俳優ソン・ガンホと作品に彩りを添えたペ・ドゥナ(画像出典:ショーボックス)

天性の商才で一気に麻薬ビジネスを掌握したイ・ドゥサムに、才女であり韓国のみならず日本にも幅広い人脈を持つ、ロビイストのキム・ジョンア(ペ・ドゥナ)が合流したことで、彼が作った麻薬は”メイド・イン・コリア”というブランドにまで成長した。これによりイ・ドゥサムは韓国を越えてアジアにまで勢力を拡大し、人生の黄金期を迎えることになる。

日本を相手に”メイド・イン・コリア”で得た莫大な富は、愛する自国の発展のために惜しみなく注がれ、地域発展の貢献者として、さらには愛国者として、国民に尊敬の念を抱かれる存在にも成り上がっていくイ・ドゥサム。

一方、麻薬により世の中はますます不安になり始め、そんななか、ひとり大躍進を遂げるイ・ドゥサムに注目する人物、キム・イング(チョ・ジョンソク)が水面下で動き始め‥。

勢いで積み上げてきた栄光がバランスを崩し始めたかのように見えるイ・ドゥサム。果たして彼が迎える結末とは――?

チョ・ジョンソクのキリッとした演技が作品を引き締めている(画像出典:ショーボックス)

このように目一杯の要素を詰め込み、”麻薬王”の誕生が濃厚に描かれているのだが、その濃さを作品の醍醐味に変えているのが、ソン・ガンホの多彩な演技だろう。

善良な市民であり父親である姿から、下請の密輸業者であった彼が欲望をむき出しにし、アジアを掌握する麻薬王へと変身する姿と、作品の始まりから終わりまで全てのシーンで爆発的な芝居を披露するソン・ガンホから視線を外すことが出来ない。
彼の演技をさらに昇華させたのは、脇を固めたペ・ドゥナ、チョ・ジョンソク、キム・ソジン、イ・ヒジュン、チョ・ウジン、さらにカメオ出演した日本の大物俳優の存在だろう。

また、韓国をメインに日本の神戸、そして暴力団も物語を動かす存在として描かれ、当時の日韓の社会情勢や双方の相手国への意識、そこには日本を相手にぼろ儲けする韓国の優越感や、良質なヒロポンを輸入できる特権を手に入れた日本の満足感と、両国のニヤリとした感覚。さらにはピースフルの真逆を行く荒々しさもあり、思わず目を背けたくなる時代背景を目の当たりにさせるのも本作の魅力だろう。

『インサイダーズ/内部者たち』のウ・ミンホ監督がメガホンを取った(画像出典:ショーボックス)

物語の前半で出演するキャラクターが一市民ですら全員”悪もの”なのだが、悪びれ感もなく純粋で素直な”悪もの”なので、どこか憎めない。悪いことをしているのに、BGMも手伝ってか、子どもの可愛いイタズラかのようにポップでキャッチ―、さらにはコミカルに描かれ、好感すら持ってしまいそうになるほどだ。
その様は、ポジティブさとハイテンションを併せ持つ、好感度絶大の日本人ユーチューバーのような陽気さ。当時の時代背景を知らない世代が観れば、恐らく「このおじさん、超ウケる」という言葉が投げかけられるのではと思う。

だが、上映時間が後半に差し掛かるのと同時に、きっかりとドロドロとした血生臭いストーリーへと変貌する。現在の韓流ブームからは想像も出来ないような当時の複雑な日韓関係や、双方の相手国への厳しい視線や意識、さらには目を背けたくなる生々しい残酷な描写も届けられる。

このような濃厚さから2時間を超える大作でありながらも、あっという間にラストまで迎えてしまう『麻薬王』。

本作を見終えて思うのは、イ・ドゥサムは”愛国者”ゆえに”麻薬王”となったのか、それとも日本を相手にぼろ儲けした”麻薬王”となったから、国民からも一目置かれる”愛国者”になったのか、ということ。

2つの顔を持つイ・ドゥサムを無限の演技力で披露したソン・ガンホは、どちらをイメージして演じたのであろうか。






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